コリ梅

177-タッカルビを魏の曹操は知らざりき

 

 

留まるべきか、退くべきか。

夕飯の鶏肉を食べながら魏の曹操は悩んでいた。

戦況は思わしくないが、撤退するには戦果がなさすぎる。

膠着状態を打破するにも時間がかかりそうだ。

 

そこへひとりの兵士がやってくる。

 

「曹操さま。警備の合言葉はどうしましょう」

 

鶏の骨をしゃぶりながらも悩み続けていた曹操は、

目の前にあった鶏を現在の状況に重ねつつ、

 

「鶏肋、鶏肋……」

 

と呟いてしまう。

鶏の肋骨。肉は少ないけど捨てるには惜しい。

しゃぶれば多少の肉はあるし、煮ればダシも出る。

その微妙な感じは、いまの戦況にそっくりだ。

合言葉とは無関係に、つい口から出た言葉だった。

 

だが、尋ねた兵士はそんな曹操の悩みなど知るよしもない。

 

「は!? 鶏肋でございますね?」

 

妙な合言葉だなと思いつつも兵士は各部署に伝える。

するとそれを耳にしたひとりの切れ者がいた。

 

「なに、曹操さまは鶏肋とおっしゃったのか!?」

 

魏を代表する知将のひとり。楊修である。

楊修はその合言葉を聞くや、部下に命じて総攻撃の準備。

もちろん総大将である曹操の命令など出ていない。

突然の行動に驚いた側近のひとりが楊修を問いただすと、

当の楊修は胸を張ってこう答えた。

 

「曹操さまは本日の合言葉を鶏肋とおっしゃった」

「これを解すれば、鶏の肋骨。すなわちタッカルビ」

「見た目は鶏の肋骨でも、その味はカルビとのご判断だ」

「この戦争も牛や豚のカルビのように、食べごたえがあるに違いない」

「ならば我々が率先して手柄を立てるのだ!」

 

なるほど。とえらく簡単に納得をする側近たち。

一同おおいに盛り上がって、敵の陣地に乗り込んでいった。

闇夜の進撃。相手のスキをついてかき回す夜襲である。

 

そして、これがうまくいってしまうから面白い。

 

自信というものは恐ろしいもので、多大な戦果をあげてしまった。

夜が明けてみれば、敵の蜀軍がほうほうの体で退却している。

驚いたのは、どうしたものかと思いつつ寝てしまった曹操だ。

 

意気揚々と引き上げてくる楊修軍。

 

「曹操さまの指示により偉大な戦果をあげました!」

「ん、余の指示だと?」

「はい。曹操さまの決めた合言葉、鶏肋の意味から推測し……」

 

呆然とする曹操の前で、楊修は自分の解釈を披露する。

完全なる誤解であったが、戦果の大きさに曹操も否定できない。

 

「そ、そうだったな。うむ、よく余の真意を理解した」

「いやはや、さすがは我が軍随一の知恵者、楊修である」

「いや、本当に愉快だ。タッカルビ万歳!」

 

いつの間にかタッカルビ様々。

 

後日、その栄誉を称え、タッカルビという料理が作られた。

名前は肋骨でも、使用する部位はもっとも肉づきのよいモモ肉。

タッカルビという料理は、こうした故事に由来する。

 

 

20071231

 

 

 

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