コリ梅

161-キムチチゲあります

 

 

学生時代に居酒屋でアルバイトをしていた。

厨房でも働いたが、ホールでの仕事が多かった。

なのでドリンクを運んだり、皿を片付けたり、

にこやかな接客といった仕事には自信がある。

 

また、ホールの仕事にはオーダーを通す仕事がある。

お客さんから受けたオーダーを、厨房へと伝えるのだ。

今は機械化されているところも多いのかもしれないが、

僕の頃は、口頭で伝えることのほうが多かった。

 

これは慣れるまで少しばかりの努力がいる。

最初の頃などは緊張しているので、

 

「ああん? 聞こえねえよ、もっと大きな声で!!」

 

などと厨房の料理長から怒鳴られたりもする。

店ごとに違うオーダー用の略語も覚えなければならず、

新米ホールアルバイトにはなかなか大変な作業だ。

 

でも、それも慣れるに従って滑らかになっていく。

 

「お願いします! 冷奴1丁、枝豆1丁……以上です!」

 

立て板に水、といった風につらつらと読み上げる。

これはこれでなかなかに気持ちのいい仕事だ。

 

韓国料理の専門店で働いていたときも、

こうしたオーダーの読み上げは行っていた。

ちょうど日本語を勉強中だった韓国人料理長の意向で、

 

「ちょっと日本語でオーダーを通してみろ」

 

ということはあったが、基本的には韓国語である。

韓国語でオーダーを滑らかに通すのは、また違った意味で難しい。

言葉の壁に阻まれたりして、

 

「ああん? もっとはっきりしゃべれ!!」

 

などとよく怒られていたものだ。

 

そして、このとき不思議に思ったことがある。

 

韓国語でオーダーを通す場合には、

ちょっと変わった表現を用いるのである。

それを直訳するのならば、

 

「キムチチゲあります!」(キムチチゲ イッソヨ!)

 

この用法は辞書を引いても出てこない。

 

客が店員に注文するときには使われない。

店員が厨房に伝えるときにのみ使われるのだ。

日本人の感覚では、どこに何があるのだという気分である。

注文があるのか、やるべき仕事があるのか、イメージに料理があるのか。

不思議に思って韓国人に聞いても、明確な答えは返ってこない。

 

いまだに食堂などで聞くたびに不思議になる。

そこには一体何があるのだろう。

 

「こちらキムチチゲになります」

 

よりもずっとずっと不思議だ。

 

 

20060915

 

 

 

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