コリ梅
141-歩く辞書の悲哀
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自宅に帰る途中で携帯電話が鳴った。 「あ、八田氏? ごめんちょっと教えてくれる?」 「うん、何?」 「韓国語でウニってなんて言うの?」 「ソンゲ」 「ソンゲ?」 「うん。ソンゲ」 しばし間が空く。 携帯電話の向こうの会話がかすかに聞こえる。 どうやら韓国人に説明をしているようだ。 「あ〜、ソンゲ〜」 という韓国人の明るい声も耳に入る。 至極納得といった感じの声だ。 「もしもし? いま韓国の友達と回転寿司食べてるの」 「そうなんだ」 「おかげで助かったよ。じゃあねえ」 という声を残して電話は切れた。 いいなあ。回転寿司でウニを食べているのか。 ひとりトボトボ歩いている自分が少しだけみじめになる。 また別のある日。 同じく自宅に帰る途中で携帯電話が鳴った。 「あ、もしもし。八田くん?」 日本に留学している韓国人の友達だった。 「ひとつ教えて欲しいんだけどホッケって何?」 「イミョンス」 「あー、これはイミョンスなのか」 そして電話の声がしばらく遠ざかり、 雑踏のような声が電話の向こうから聞こえてくる。 どうやら居酒屋で盛り上がっているようだ。 「あともうひとつ。カレイって何?」 「カレイはカジャミ」 「カジャミかぁ」 「うん。カジャミ」 「わかった。ありがとう。じゃあね!」 電話は切れ、やっぱり妙な寂しさが残る。 この寂しさは一体なんなのだろう。 不思議なのはこうした電話が必ずひとりのときにかかってくること。 誰かと一緒ならそれをネタに自分も盛り上がれるが、 ひとりでは盛り上がりようもないし自慢もできない。 韓国人も知らない単語を即答してカッコいいはずなのに、 なぜか一方的に盛り上がりを吸われた気分だ。 歩く辞書はときに孤独で寂しい。 2005年10月04日 |
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