コリ梅

111-地下鉄2号線のバトンリレー

 

 

「この電車は新道林駅まで行きますか?」

 

そう尋ねたのは、韓服姿のおばあちゃんだった。

シルバーシートに腰かけ、風呂敷包みをひとつ持っている。

田舎から出てきたのだろうか。ソウルの地理には明るくないようだ。

新道林駅だったら反対方面の電車に乗らなければならない。

 

問いかけられた僕らはうろたえた。

なにしろ日本人ばかり4人。いずれも観光客だ。

空いている電車で、まわりに頼れそうな人もいない。

 

「新道林だったら反対方向だよね」

「でも、このまま乗ってても着くことは着くよ」

 

ソウルの地下鉄2号線は環状線。

時間は余計にかかるが、いつかは新道林駅に着く。

 

「無理に乗り換えるより、このまま乗ってたほうが確実じゃない?」

「でも、もし急いでるんだったらまずいよ」

 

聞いてみると、おばあちゃんには急ぎの用事があるらしかった。

ならば、やはり電車を乗り換えなければならない。

 

「次の駅で降りて、反対方面の電車に乗り換えてください」

 

と、言ったところで、それが簡単ではないことに気付いた。

階段を上り下りし、反対側のホームまで移動しなければならない。

一緒に降りて案内できればよかったが、

あいにく僕らにも待ち合わせの用事があった。

 

悩んでいるうちに、電車が次の駅に到着する。

 

「階段を下りて、反対側のホームに移動してくださいね」

 

と、おばあちゃんに伝えたものの、やっぱり不安だった。

きちんと反対方面の電車に乗れるだろうか。

 

そのとき。隣のドアから、若い男性が降りるのが見えた。

そうか、あれだ。その男性のところへ走る。

 

「すいません。あちらのおばあちゃん、反対方向に乗り換えるんですが……」

 

だが、その男性はいぶかしげな表情で、そのまま行ってしまった。

駄目か……。と、思ったそのとき。

誰かが僕の肩をトンと叩き、脇をすり抜けていった。

 

プシューッ、と音を立ててドアが閉まり、電車が動き出す。

ゆっくりと流れていくドアの向こうで、

ひとりの中年男性が、おばあちゃんに近寄るのが見えた。

 

あ、これで大丈夫だ。

 

と、思った瞬間。

身体から、ふっと力が抜けた。

 

20040823

 

 

 

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