コリ梅

051-大ジョッキを10個持つ

 

 

新橋にある居酒屋で働いていたことがある。

串焼き、厚揚げ、卵焼きあたりが人気で、

いわば日本の代表的な居酒屋という趣であった。

 

僕の仕事はホールの仕事だった。

主な仕事は、客から注文を取り料理を運ぶことである。

客席が100を越えるそれなりに大きな店で、

週末などは混雑して忙しかった。

 

その忙しさを克服するためには、

ホールなりに「技術」というものが必要だった。

その代表格が、ジョッキの10個持ちである。

 

ジョッキを持つというのは意外にコツがいる。

ビールが満たされているため、けっこうな重さがあり、

その重さに負けず、かつ安定させて運ぶには、

持ち方を一工夫しなければならない。

 

10個持つということは、すなわち片手に5個。

5個の取っ手を片手で握れるように、ガチっと固定し、

これを親指と薬指で包み込むように握る。

人差し指だけは上にぴょこんと出して、

3方向からぎゅっと固定し、ぐっと持ち上げるのだ。

 

右手にジョッキ5個、左手にジョッキ5個。

これが大ジョッキともなれば、腕が震えるくらいの重さになる。

それを1度に運べるということは、一種のステータスであった。

僕はジョッキに水を入れ、この10個持ちを練習した。

10個持てるようになったときの誇らしさは忘れられない。

 

「はい、すいませーん。こちら大ジョッキ10丁になります」

 

ガチャガチャと音を鳴らしながら、ジョッキをテーブルに置く。

やがて聞こえる弾んだ「かんぱーい」の声。

至福の瞬間を運んだのは、僕である。

 

2003年05月13日

 

 

 

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