サメガレイなる日々
009-九州旅行4日目に食べたうまいもの
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魚介三昧、カクテル、とんこつラーメン。 フルコースで味わって身も心もトロトロのグダグダ。 目一杯いい気持ちに酔っ払い、ふと気付くと朝だった。 友人宅に泊めてもらったので、朝食はニッポンの朝ごはん。 ごはん、味噌汁、納豆、焼きのり、焼き魚。 うんうん。ニッポンの朝はやっぱりこうだよなぁ……。 と、しみじみ幸せな気分になった。 飲んだ翌朝に食べる味噌汁は、何故かくもうまいのか。 このままずっと中津にいられたらいいなあ、とも思ったが、 翌々日から韓国に渡るため、この日で博多に戻らねばならない。 友人が仕事のついでで途中まで送ってくれるというので、 車に同乗し久留米まで行くことにした。 「久留米まで行けば博多までは電車で3、40分くらいだよ」 「あ、ほんと? じゃ、お願いしちゃおうかな」 「じゃあ、ついでに久留米ラーメンを食べに行こう」 く、久留米ラーメン!? 久留米といえばとんこつラーメン発祥の地。 博多ラーメン、熊本ラーメンに多大なる影響を与え、 九州ラーメンの基礎を作った偉大な地域だ。 「久留米のラーメンは博多とはまたちょっと違ってね」 「うんうん」 「よりこってりとしているから、ドとんこつと呼ばれる」 「ドとんこつ!?」 「ドは強調のドね」 「そ、それはすごそうだね……」 「呼び戻しって言って、その日のスープを捨てずに注ぎ足すのがポイント」 「なるほど。ウナギのタレみたいに作るわけですな」 それはうまそうだなあ、と頭の中で味を想像していると、 「あ、また食べたいモードに入ってる」 と、笑われてしまった。 九州に来てから、この食べたいモードにハマることが多い。 来る前にある程度の下調べはしてきたのだが、 実際に来てみると、聞いたことのない名物料理がボロボロ出てきた。 「熊本に行くと太平燕(タイピーエン)っていう豪華な春雨スープがあるよ」 「日田は想夫恋の焼きそば。麺をしっかり焼くからパリパリで美味しい」 「焼きそばがあれば焼きうどんもある。小倉は焼きうどん発祥の地」 ひとつひとつの情報にヨダレを流し、 う、う、食べたいぃぃぃ……と悶え苦しむ。 何故3泊4日しか日程を確保してこなかったのだろう。 1ヶ月くらい九州を放浪してもよかったじゃないか、 と悔やまれてならなかった。 九州の料理とはいずれきっちりと勝負をつけねばならない。 それまで情報収集を念入りにしよう。 などと考えているうちに、久留米の町へ車が到着した。 |
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丸星中華そばセンター |
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「見ためは汚い店だけどね。まずはここから食べるのがいいと思う」 友人が連れていってくれたのは丸星中華そばセンターという店。 1958(昭和33)年創業という久留米ラーメンの老舗である。 国道沿いに位置し、しかも24時間営業。 長距離トラックを運転する人たちのクチコミで有名となり、 久留米ラーメンの名を全国に広めたという店だそうだ。 いかにもレトロな店構えで、 中に入るとむわっとした豚骨の香りに包まれた。 入口すぐの券売機で食券を買い、年季の入ったテーブルにつく。 と、ほとんど時間差なしにラーメンが運ばれてきた。 外見は至ってシンプルで、麺は若干細めのストレート。 白濁したスープに、海苔1枚、チャーシュー1枚。 刻んだ細ネギがパラパラと振られている。 だが、漂ってくる香りが尋常ではない。 店内に入ってきたときの香りを数十倍にした感じ。 香りというよりも、こってりオーラが出ている。 その迫力に多少おののきながらも、まずはスープの味を見る。 「ずず、ずずず……。ん!?」 思いのほかまろやかでびっくりした。 とろとろした感じはあるものの、脂だけが強調された味ではない。 もちろんあっさり味ではないが、ギトギトではなくコテコテでもない。 いい感じに角の取れた、柔らかみのあるコクが感じられる。 長時間じっくりと煮込んだことによって、 すべての成分が完全に交じり合ったような感じ。 食べやすい、というよりもどんどん食べてしまう。 紅生姜を加え、替え玉も加えてずるずるやっていると、 あっという間にきれいさっぱり食べ終えてしまった。 こってりスープもぐぐっと飲み干して完食である。 と、そこで友人が言った。 「スープの底をちょっと見てごらん」 スープの残りに目を凝らしてみると、 骨のかけららしきものがいっぱい沈んでいる。 「ここまでじっくり煮込むからうまい」 「なるほど」 スープとしてだけ見れば余計な不純物だが、 あのこってりを味わった後では、貴重な味の結晶に見える。 骨がかけらになるほどよく煮込んだという証拠だ。 しかも嬉しいことに、このラーメンが350円(替え玉100円)。 値段も味も、大満足の久留米ラーメンであった。 |
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ドとんこつの異名をとる久留米ラーメン。うまい。 |
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さて、ここからは博多で1泊し翌朝ソウルへと旅立つのだが、 寝るだけと思っていた夜に九州最後の感動があった。 そのときの話を最後に書いて、九州のうまいもの日記を締めくくろう。 最終日は1人だったので、軽く食べて翌日に備えるつもりだった。 何しろ翌日の飛行機は朝9時ちょうど発の便。 「ぱぱっと食べて、ぱぱっと寝ることにしよう」 そう考えた僕は、ホテル周辺で飲食店を探した。 目に付いたのは九州の郷土料理を食べさせる居酒屋だった。 入口からドア越しに中をのぞくと、カウンター席が空いている。 ここでいいかな、と思ってこそこそと中に入った。 これが運命の選択。実に意外な展開となる。 メニューをざっと眺めて、九州名物をいくつか注文する。 ・ごまさば ・あぶってかも ・辛子明太子 ごまさばは魚の種類でなく料理の名前。 ゴマ、海苔、味噌ダレで和えたサバの刺身のことで、 サバもゴマサバではなくマサバを使用している。 脂の乗った刺身にゴマと海苔の香りがプンプン。 ごはんにドサ盛りして食べたい味だった。 あぶってかもはスズメダイのこと。 体長10センチほどの金魚みたいなタイ。 韓国では済州島の名物として知られる魚だ。 済州島に行ったときは、エラと頭だけ落として刺身で食べたが、 九州では別名の通りあぶって(焼いて)食べる。 身は柔らかくもろもろっとして上品な味。 頭、骨まで食べられるので、バリバリ食べるとおいしい。 特に頭のあたりがとろっと濃厚でいちばん味がよかった。 辛子明太子はちょこちょことつまみつつ、 最後にごはんセットを頼んで、ごはんと一緒に食べた。 |
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左上からごまさば、あぶってかも、辛子明太子、焼酎のお湯割りを注文したら幻の焼酎といわれる森伊蔵が出てきた。 |
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これだけでも充分に幸せな話なのだが、 予想外の喜びがあったので、それをぜひ書き記しておきたい。 居酒屋の1人客が珍しかったのだろうか。 またはいかにも観光客らしき風体だったのかもしれない。 店の人が厨房からカウンター越しに話しかけてきてくれた。 九州は初めてか? 旅行で来ているのか? どこへ行ってこれからどこへ行くのか? 他愛もない世間話だが、カウンターの1人酒はそれが嬉しい。 これ幸いと、九州の料理についてもいろいろと教えてもらった。 ひとしきり話したところで、 注文したあぶってかもが焼きあがってくる。 「ほい、じゃ、サービスね」 と、渡された皿を見て、むちゃくちゃ驚いた。 スズメダイ2匹の横に、白くて丸い塊がある。 ほんのり焦げ目がついて、表面はプクプク。 「あらー、よかったわねぇ」 隣でやり取りを見ていた女将さんが言う。 「こ、こ、これはもしや……」 厨房を見ると板さんがにっこりと笑った。 世の中にこんな贅沢なサービスがあってよいものか。 さっとあぶったフグの白子が、スズメダイにくっついてきた。 「熱いうちに食べなよ」 と、板さんが言う。 目でしっかりと眺め回し、目一杯自分にもったいつけた上で口に運ぶ。 瞬間、てれてれとろーっと熱い液体が舌の上に流れてきた。 「う、うまいぃぃぃぃぃぃ……」 九州に来て本当によかった と、心からそう思った。 |
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サービスの白子。博多人の心意気を見せてもらった。 |
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結局、ぱっと食べてぱっと帰るつもりが、 生ビールを2杯飲み、焼酎のお湯割りを2杯飲み、 勢いがついてもう1軒飲みに行ってしまった。 ソウルに向かう翌朝を、完全な2日酔いで迎える羽目になるのだが、 それはそれで後悔するようなことでもない。 ともかく九州にやってきての3泊4日は最高の日々だった。 九州にはまた来なければならない。 そう心に強く刻み付けつつ、ソウル行きの飛行機に乗った。 ただ、このとき九州の余韻に浸りすぎた余り、 あろうことか空港でATMに立ち寄るのを忘れてしまった。 飛行機の中で財布を確認すると、所持金はわずか9000円足らず。 九州での幸せ気分はあっという間に霧散し、 僕は真っ青になったままソウルに到着したのだった。 |
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