美味なるニッポン!

第8回:東松山の焼きとりは韓国テイスト!

 

美味なるニッポン!第8回

 

<東松山の焼きとりは韓国テイスト!>

 

「川越にうまいカシラを食べに来ないか?」

 

川越在住の友人がそう誘ってくれた。

若松屋という地元で評判の店に案内してくれると言う。

 

カシラといえば豚の頭部の肉を串焼きにしたもの。

焼きとりのひとつとしてメニューに並ぶことも多いが、

ハツ、シロなどとともに鶏ではなく豚なので「焼きとん」が正しい。

 

「行く行く行く。尻尾振って行く」

 

ふたつ返事で承諾し、東武東上線に乗って川越まで出かけた。

 

友人の説明によると、その店のカシラは一味違うとのこと。

 

注文の必要がなく、ストップというまでカシラが出続ける。

カシラは唐辛子とニンニクが入った特製の味噌ダレで食べる。

そして驚くべきことに、特製の味噌ダレはかなり韓国テイスト。

 

「韓国で焼肉を食べるときに使う、サムジャンによく似ているんだよね」

 

と友人は言う。

 

そんな馬鹿なと思ったが、実際に食べてみると確かによく似ている。

シコシコとした歯触りのカシラは、脂がのっていてジューシー。

それをスパイシーな味わいの味噌ダレがキュッと引き締めている。

 

「ほんとだ。サムジャンによく似てる」

「でしょ。きっと川越と韓国には何かのつながりがあるんだよ」

 

川越在住で釜山通の友人は嬉しそうに言った。

 

「どんなつながりがあるのさ」

「うーん、それはわからないけど、きっと何かが」

「たまたまじゃないの?」

「いやあ、それにしてはよく似ているし」

 

不思議がりながらも、その日は特に突き詰めず、

カシラを食べるのに専念し、きっちりしっかりと酔っ払った。

 

 

 

川越市駅のすぐ近くにある若松屋。カシラ目当ての客でいつも店内は満員。

 

これで終われば、不思議だねえというだけの話だが、

試しにネットで検索してみたところ、実に意外な事実が判明した。

 

まず、カシラの本場は川越ではなく東松山だとのこと。

 

料理の発祥や、元祖の店もはっきりしており、

東松山市も積極的にバックアップをしているらしい。

市のホームページには専門店マップまであった。

 

事前調査でわかったのは主に以下の通りである。

 

1、東松山ではカシラのことを「焼きとり」と呼んでいる。

使っているのは豚肉だが、すでに料理名として定着しているらしい。

東松山で焼きとりといえば豚のカシラをさすのが常識とのこと。

 

2、東松山駅を中心に約100軒の焼きとり店が存在する。

東武東上線の東松山駅周辺にもっとも多く、

隣接する高坂駅、森林公園駅周辺にも専門店が並ぶ。

そのうち35の店は「東松山焼鳥店組合」にも加盟している。

 

3、元祖の店は昭和36年創業の大松屋

戦後まもなく大松屋の初代が開発したのが始まり。

利用価値の低かったカシラ肉を美味しく食べるために独自のタレを開発。

ここの初代が韓国出身であり、故郷の味をアレンジして作ったところ人気を得た。

この店は現在も存在し、元祖の店として繁盛している。

 

 

なるほど。友人の直感は確かに当たっていた。

 

カシラのタレは、韓国の味に似ているのではなく、

最初から韓国の味をベースにして作られたものだった。

 

興奮した僕は判明した事実を友人に伝える。

 

「これは東松山まで行かねばならないのではないか」

「うむ、真実を確かめに行かねばなるまい」

 

元祖格の大松屋はもちろん、川越の若松屋も実は支店であり、

本店は東松山にあるということがわかった。

 

「これは焼きとりのハシゴだな」

「うむ、カシラ100本食べて来ような」

 

急遽、東松山焼きとり探検隊が組まれ、

平日の夜に集合して、東松山を目指すことにした。

 

 

東武東上線の東松山駅。駅を出てすぐのところに大きな鳥居がある。

 

東松山駅を出ると、駅前には大きな鳥居があった。

これを抜けて10分ほど歩いた大通り沿いに元祖の大松屋がある。

大松屋の看板が暗がりに白く光っていた。

 

「あーい、いらっしゃーい!」

 

入口の引き戸をガラガラと開けると、

カウンターだけの店内は先客でぎっしりだった。

カシラを焼く白煙と、酒場独特の熱気が渦を巻いている。

 

「えと、2人なんですけど入れますか?」

 

雰囲気に圧倒されながらも、カウンターの中へ声をかける。

奥のほうを少し詰めてもらい、なんとかもぐりこむことに成功。

まずは生ビールを注文し、気持ちを落ち着ける。

 

と、そこへ中央の焼き場で作業をしていたおばちゃんがやってきた。

 

「カシラどんどん出るけどいいんだよね」

「あ、はい。お願いします」

 

ここもやはり自動的に出てくるシステムのようだ。

食べ続ける限りずっと出てくるのが東松山式。

チャキチャキっと焼き場に戻ったおばちゃんは、

カシラを2本手に取ると、僕らのところに再び戻ってきた。

 

「ホイ、それじゃこれをつけて食べてね」

 

味噌の入った青い缶をこちらに寄せてくれた。

木のヘラが入っており、それをカシラになすりつけて食べるそうだ。

 

 

 

東松山式焼きとりを開発した大松屋。開店と同時に満員になる。

 

「うわ、これはでかいな!」

 

カシラを見た友人が思わず声をあげる。

確かに川越で見たカシラよりも、さらに一回り大きい。

間に挟まったネギを、体格で圧迫しているようにも見える。

 

「それではまず……」

 

お互い顔を見合わせてから1串目を口に運ぶ。

 

「!!!」

 

再び顔を見合わせたタイミングが同時だった。

 

先端のひと塊を口にしただけで、ケタ違いのうまさだとわかる。

あれだけ大きな塊なのに、口の中で柔らかくほぐれるのが不思議だ。

それでいて独特のシコシコ感もしっかり残されている。

 

2口目、3口目を食べていくにつれ、

脂の多い部分と少ない部分があるのにも気づいた。

 

脂の多い部分はとろけるような舌触りで、

ガブリと頬張ると、脂の1滴が口元を伝っていくような錯覚に陥る。

逆に脂の少ない部分はシコシコとした中にどっしりした旨みがある。

 

脂の快感。噛む快感。

そのどちらもが非常にうまい。

 

そして、またタレがうまい。

ほんのりとした甘さに、ニンニクの香りがよく効いている。

唐辛子の辛さはそこまで強調されておらず、むしろマイルドな印象だ。

 

あっという間に1本目を食べ終える。

カシラの余韻を感じつつ、同時に1杯目のビールが空になった。

 

と、ここで友人が言う。

 

「よし、次はチューハイに切り替えよう!」

「え?」

 

他の客を見るように友人が目で合図する。

 

見ると確かにビールを飲んでいるのは僕らだけで、

他の客たちはみんなチューハイか冷酒を飲んでいた。

脂気の強いカシラと、味の濃い味噌に合わせるのなら

さっぱりと口の中を洗い流せるチューハイのほうがいいのかもしれない。

 

早速レモンハイに切り替えると、これがまた大当たり。

やはりビールよりもチューハイ系のほうがカシラのうまさを引き立てる。

 

「うはは、これは本当に100本食べられるかも!」

 

調子に乗ってレモンハイをガブガブ飲み、

シロやレバーなどにも手を出し始めたところで、ふと異変に気付いた。

 

「あれ? もうお店おしまいですか?」

 

先客がぞろぞろと帰り始め、厨房内でも片付けを始めている

時計を見るとまだ7時半を過ぎたあたりだ。

 

「うん。ここは田舎だからね。遅くまでやっててもお客さんいないのよ」

 

店の看板をによれば、大松屋の営業開始は4時15分。

閉店は8時であり、営業時間は1日に3時間45分しかない。

その短い間にたくさんの客が訪れ、パッと飲んでパッと帰るのだ。

 

これだけの味で、たったこれだけの営業時間。

もったいないような気もするが、だからこそいいのかもしれない。

 

 

カシラのほかにハツ、レバー、シロもある。カシラ以外ではシロが美味しかった。

 

他の客がいなくなったのをいいことにいろいろ質問してみる。

 

「このお店が元祖ということでいいんですよね」

「そう。うちの初代がカシラを上手に利用できないか考えたの」

 

「このタレには韓国の味噌が入っているんですか?」

「ううん、白味噌。それとショウガ、ニンニク、唐辛子。あとは秘密が色々」

 

「串の真ん中に脂の多いところの肉が入っていた気がするんですが?」

「みんな一緒。肉の場所によってちょっとずつ味が違うだけ」

 

気さくな感じでポンポンと教えてくれた。

元祖の店にありがちな、気取った感じがどこにもない。

なんともアットホームな雰囲気の店だった。

 

出て行くのがなんとも惜しい気分だったが、閉店時間では仕方ない。

ハシゴという目的もあるので、大松屋を出て次を目指す。

 

 

 

東松山の町は焼きとりだらけ。

 

2軒目は川越に支店を持つ若松屋である。

 

若松屋もこの界隈ではかなりの有名店らしい。

ネットで見る限り、大松屋より高く評価している人も多かった。

川越の支店も美味しかったので、本店はさらに期待できる。

 

ところが、店の前に着いてみると、すでに暖簾が下りている。

 

中に人の気配はあるが、店の片付けも終わりかけているようだ。

焦った僕はガラス戸を開けて中の人に声をかけた。

 

「あの、もう終わりですか?」

「肉がなくなったからおしまいー!」

 

店内はガランとしており、もう店の人も帰り支度をしている。

このぶんだと大松屋よりも前に閉店していたに違いない。

 

東松山ではどこの店も早々に店を閉めてしまうようだ。

 

「この時間だともう駄目だってことだな」

「もっと早い時間に来ないと、ハシゴは無理ってことだ」

「仕方ない。川越に戻ろうか」

 

東松山をあきらめ川越に戻る。

目指すのはもちろん若松屋の支店だ。

支店のほうは11時まで営業をしているのである。

 

静かになった東松山とは対照的に、

川越駅の周辺は人通りが多く、賑やかであった。

若松屋の店内にも、にこやかな笑顔の酔客がひしめいている。

 

次々に運ばれてくるカシラを食べながら反省会。

 

「次はもっと早い時間に行こう」

「うん、4時頃から行って飲み始めることにしよう」

「夕方スタートで今度こそハシゴをしよう」

「カシラを目一杯食べよう」

 

豚のカシラを使った東松山の焼きとりを食べに。

 

気持ちのいい夕方が迎えられそうな日を待って、

ぜひともまた行ってみたいと思う。

 

<美味なる料理データ>

美味なる料理 :焼きとり

美味なるエリア:東松山市

美味なる種類 :肉料理

美味なる価格帯:組合加入店はカシラ1本100

 

<美味なる料理リンク>

東松山やきとり組合

http://www.aya.or.jp/~h-matsu/yakitori/

東松山市公式ホームページ 一度食べたらくせになる味 名物「やきとり」

http://www.city.higashimatsuyama.saitama.jp/out/yakitori/yakitori.htm

東松山市公式ホームページ やきとりマップPDF

http://www.city.higashimatsuyama.saitama.jp/out/yakitori/image/yaki_map.pdf

東松山市商工会 東松山のやきとり             

http://www.saitama-j.or.jp/~hmy/chiiki/food/index.htm

 

 

 

戻る

トップページへ