美味なるニッポン!

第7回:水戸の新旧ご当地料理を食べ比べる!

 

美味なるニッポン!第7回

 

<水戸の新旧ご当地料理を食べ比べる!>

水戸に「ねばり丼」という新しい料理が出来たらしい。

 

そんな話がひょんなところから耳に入った。

「納豆のまちづくり」を目指し、地域ぐるみで知恵を絞って開発。

昨年末から水戸市を中心に販売が始まっているそうだ。

 

この話を聞いた瞬間、僕は思った。

 

「ねばり丼。ねばり丼。ねばり丼……」

 

いいじゃないか、この安直かつ率直なネーミング!

 

地域に密着した料理は変にひねると失敗する。

直球ド真ん中の、わかりやすい料理名がベストだ。

 

料理の詳細を調べてみると、名前から想像した通り、

納豆をはじめとしたネバネバ食材満載の特製丼ということだった。

納豆、山芋、オクラ、メカブ、ナメコなどなど。

とにかくドロドロネバネバしたものを寄せ集めた丼である。

 

と、聞いてしまうと、

 

「なーんだ、そんなのウチでだって作ってるよ!」

 

という声があがるかもしれない。

それはわかる。僕とて納豆にある程度のアレンジはする。

料理としての新鮮味や珍しさは、確かにさほどのものではない。

 

だが、市をあげて作ったというのが素晴らしいではないか!

 

水戸のねばり丼。納豆の本場で食べるねばり丼。

あなたも私もねばり丼。みんなでズルズルベタベタドロドロウニウニ。

ねばり丼万歳。納豆万歳。水戸ばんざーい。

 

と、突発的な妄想を120%発揮してしまい、

いてもたってもいられず水戸まで行ってきた。

 

上野から水戸まではスーパーひたちで1時間少々。

各駅停車を乗り継いでも2時間半程度で行ける。

その気になれば、ちょいと行って来られる距離だ。

 

 

水戸駅前には黄門様と助さん格さんの像がある。

 

水戸駅に到着し、まずは情報収集からスタート。

 

近くに市役所があるようだったので、まずはそこに向かってみた。

市役所ならばそこで観光情報もきちんと取り扱っているはず。

市が主導で始めた振興計画なので、詳細な情報も得られるかもしれない。

 

10分ほど歩いてたどりついてみると……土曜日で役所は休みだった。

かろうじて開いていた休日受付で話を聞く。

 

「あのう、今日は観光案内やってないですよね」

「観光案内? 駅の中にありますよ」

「へ?」

 

なんと、改札を出てすぐのところに観光案内所があるという。

今そこを通ってきたばかりなのに、まったく気がつかなかった。

 

ついでにねばり丼についても質問してみる。

 

「あの、この近くにねばり丼って食べられるお店ありませんか?」

「あ〜〜〜〜」

 

2人のお姉さんが、同時に声をあげる。

 

「いやー、どうですかね。それこそ観光案内所に行ったほうが……」

 

2人ともねばり丼の名前は知っていても、

どこで食べられるのかはまったく知らないようだ。

 

「あんまりねばり丼って有名じゃないんですかね」

「んー。私ら地元なんでね。身近すぎて逆に食べないですよねぇ」

 

地元であればこその反応だが、市役所でこの反応はさびしい。

せっかく作った新名物も、地元ではあまり盛り上がっていないようだ。

ねばり丼については、その後も何度か地元の人に尋ねてみたが、

返ってくる答えは申し合わせたかのように同じだった。

 

存在は知っているけれども、実際に食べたことはない。

どこで食べられるのかもよく知らない。

 

「ねばり丼って、やっぱりお役所的な新名物なのかな……」

 

一抹のさびしさを感じつつ、観光案内所へと戻る。

 

観光案内所の人はさすがにねばり丼事情にも詳しく、

ねばり丼の名前を告げただけで、資料がたくさん出てきた。

パンフレットには水戸市内の地図とともに、

ねばり丼を提供している店がずらりと書かれている。

 

「け、けっこうたくさんの店で出しているんですね」

 

ざっと見ても20軒くらいの飲食店でメニューに並べているようだ。

 

「どこのお店に行ったら美味しいねばり丼が食べられますか?」

「うーん、そうですねえ……」

 

観光案内所の人は少し悩んで1軒の海鮮料理店を紹介してくれた。

あちこち食べ歩いたわけではないが、以前に紹介したところ、

なかなか評判がよかったということである。

 

駅ビルの上のレストラン街にあると言われたので、

さっそくエスカレーターに乗ってそのレストラン街へ。

そこには、唐突にねばり丼ののぼりまで立っており、

水戸に来て以来、やっとねばり丼の存在を身近に感じることができた。

 

 

ねばり丼と書かれたのぼりが目印。値段は店によってそれぞれ違う。

 

開店直後の店に入ってカウンターに座る。

目の前にはねばり丼のポスターが貼り出されていた。

 

「ねばり丼ひとつ」

 

店員さんによって、注文がカウンターに通される。

 

「ねばり1丁お願いします!」

「あいよ、ねばり1丁!」

 

ねばり丼は、店内では「ねばり」と略されていた。

連呼される「ねばり」の語感が妙に心地よい。

 

さあ、どんな料理が出てくるのか。

 

カウンターでワクワクしながら登場をじっくりと待つ。

 

「お待たせいたしました。ねばり丼です」

 

の声とともに、肩の後ろからトレイがぬっと出てきた。

目の前に置かれたのは、大きな丼がひとつ。

それに味噌汁、漬物、小鉢がついた。

 

メインのねばり丼に目をむけると、想像よりもはるかに豪華である。

事前の下調べで見たものよりも具の数が多かった。

 

ねばり丼に決まった形式というのはないようで、

基本の具をいくつか抑えれば、後のアレンジは店に任されている。

この店は海鮮料理の専門店だけに刺身などもあしらわれていた。

ねばり丼の名ではもったいないくらいに豪華な丼だ。

 

気になる具をひとつひとつチェックしてみよう。

まずねばり丼の根幹をなす、ねばる具から列挙してみたい。

 

納豆、オクラ、山芋、メカブ、松前漬け。

 

ナメコが入るという情報もあったが、この店の具にはなかった。

山芋はすりおろしたものが全体にかかり、拍子切りにしたものもあった。

松前漬けは、細切りにした昆布やするめを醤油で味付けたもの。

他の具ほどではないにしろ、昆布が多少の粘りを加えている。

 

粘り以外の役割を担う具も豊富だ。

 

マグロの刺身、イカの刺身、イクラ、温泉卵。

そこに刻み海苔、錦糸卵、刻みネギ、ワサビが彩りを添える。

丼料理として考えても、かなりゴージャスである。

 

丼の脇には、割り箸と一緒に木のさじが添えられていた。

確かにこの料理であったら箸よりもさじのほうが食べやすいだろう。

思わずビビンバのように、全体をかき混ぜたい衝動にかられたが、

ぐっと我慢してそれぞれの具も味わえるようにしておいた。

 

ざっとかき混ぜたところを、ずずっとすすりこんで食べる。

 

さて、この料理はねばり丼である。

食感のほとんどが、ねばねばであり、ずるずるしている。

従って食べているときの擬音はこのようになる。

 

ずずっ、ずるずずっ、ずぞぞぞぞぞ!

 

日本蕎麦を食べているときより、はるかに音が派手。

思わず調子にのって、よりいい音をたてようと努力してしまう。

 

コクのある納豆の風味。オクラのシャキシャキ感。

山芋のねばりで口の中がもわもわになり、その端でメカブがとろんと糸を引く。

ときにイクラがプチッと弾け、温泉卵の黄身が流れ出てくるのもいい。

意外なところでは松前漬けのするめがいい仕事をしている。

 

「うん、うまいじゃないか!」

 

と言おうとしたら、口が粘って妙にくっつき、

 

「うぬ、うにゃいりゃにゃいきゃ!」

 

という感じになった。

常識を超えるずるねば状態なので、

コメントを述べたり、会話を楽しむにはむかないようだ。

 

むしろ黙って、ずるずるに没頭するほうがいい。

 

 

だが、食べていてひとつのことに気がついた。

 

さすがは水戸というべきだろうか。

納豆がむちゃくちゃうまい。

 

すべての具の中でも、納豆だけが際立ってうまいので、

いつの間にか、ついつい納豆部分を探しながら食べている自分に気付く。

逆に言うと、納豆に比べて他の具が凡庸に感じられてしまう。

 

もしかしたらこの納豆はうますぎるのかもしれない。

納豆を食べたいのに、納豆以外の具ばかりが口に入ってくる。

 

「もっと納豆を!」

 

という欲求が高まったところで丼が空になった。

美味しいけれども、納豆の魅力を完全に引き出した料理ではないと思った。

 

もっといえば、シンプルに納豆丼のほうがうまいと思う。

 

だが、それだとあまりに地味だし、観光客へのアピールとしても弱い。

それを考えるとねばり丼のほうが、ご当地料理としては正しいのかもしれないが、

このあたりの兼ね合いが、ねばり丼の今後の課題だと思った。

 

ねばり丼。刺身やイクラが乗る豪華バージョン。

 

さて、ねばり丼を食べたすぐ後に、

もうひとつ気になるご当地料理があったので行ってみた。

 

ねばり丼と同じく、地域振興のために作られた料理。

水戸黄門にちなんだ、水戸藩ラーメン(黄門ラーメン)である。

 

雑学に詳しい人なら知っているかもしれないが、

日本で初めてラーメンを食べた人物が水戸黄門こと徳川光圀である。

中国から招いた儒学者の指導で、ラーメンを作って食べていたと記録に残っている。

 

水戸藩ラーメンは、そのときのラーメンを忠実に再現したもの。

 

小麦粉にレンコンの粉を混ぜて麺を作り、スープは豚のモモ肉で取る。

分厚いチャーシューにシイタケを添え、5種類の薬味を添えるのが特徴。

薬味は5辛と呼ばれる、ニラ、ラッキョウ、ネギ、ニンニク、ショウガ。

そのほかに松の実や、クコの実も入る薬膳的なラーメンだ。

 

このラーメンは、水戸市のラーメン店が協力して開発。

レンコンの粉を混ぜた独特の麺も、市内の製麺所が生産を一括して担っている。

地域振興を目指すご当地料理としては、ねばり丼の先輩格と言えるだろう。

と、同時にラーメンのルーツを味わうこともできる。

 

水戸藩ラーメンを出す店のうち、元祖格とされる1軒に入った。

 

食べてみると、懐かしさを感じさせる醤油味のラーメン。

最近は東京でも豚骨ベースのこってりラーメンが多いので、

あっさりとした醤油味のラーメンが妙に嬉しい。

 

レンコンの粉を混ぜたという麺は、醤油に浸したような色で驚いたが、

これといったクセもなく、太からず細からずのストレート。

一言付け加えるならば、薬味との相性が非常によかった。

 

ニンニクの香りや、ニラの香り、ラッキョウのほのかな酸味など、

それぞれの薬味とともに麺を味わう楽しさがある。

特にショウガと麺の組み合わせは、和の味を強く感じて新鮮だった。

 

ラーメンでありながら、

ざるうどんや、素麺を食べているような不思議な感覚。

最古のラーメンでありつつも、ラーメンの新しい世界を見るようだった。

 

 

ねばり丼と、水戸藩ラーメン。

 

どちらも地域性に富んだ、個性的なご当地料理である。

だが、残念なことに他地域のご当地料理に比べて知名度が落ちる。

 

「このへんの人はみんな殿様だからね。商売は下手なんだわ」

 

とは、水戸藩ラーメンを食べた店のおばちゃんの弁である。

ねばり丼の地域への浸透性などを鑑みても、妙に頷ける言葉である。

せっかく作ったご当地料理なのだから、もっとアピールをしていいはず。

 

水戸のご当地料理は、もっともっと盛り上がる余地を残している。

 

そう強く感じた水戸の旅であった。

 

 

水戸藩ラーメン。5種類の薬味を入れて食べる。

 

偕楽園(左)と隣接する千波湖(右)。千波湖には白鳥ならぬ黒鳥が生息する。

 

<美味なる料理データ>

美味なる料理 :ねばり丼/水戸藩ラーメン(黄門ラーメン)

美味なるエリア:水戸市

美味なる種類 :ご飯料理/麺料理

美味なる価格帯:500円〜1200円程度

 

<美味なる料理リンク>

茨城県 ねばり丼が食べられる店一覧

http://kanko.pref.ibaraki.jp/event/nebaridon.html

 

 

 

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