美味なるニッポン!

第4回:からあげ好きは大分県中津市に行け!

 

美味なるニッポン!第4回

 

<からあげ好きは大分県中津市に行け!>

大人になってよかったな、という事のひとつに、

好きなときにからあげが食べられるということがある。

 

からあげ。鶏のからあげが僕は大好きだ。

 

外側がカリッ。中から肉汁がじゅわっ。

醤油の焦げた香ばしい風味が口中に広がって、

ごはんが、ビールが進んで仕方ない。

 

そんなに大好きなからあげだが、

子どもの頃は、常に食べられるという訳ではなかった。

夕食のおかずとしてたまに出てくる程度。

あるいは弁当に、2、3個ちょこんと入っているくらい。

 

大好きな割にはお目にかかる機会が少ない。

ハンバーグやカレーに比べると、からあげは明らかに地味で、

母親も気が向けばたまに作るという程度だった。

 

僕自身、からあげのたびに大喜びしていたが、

自分から積極的にからあげをねだることもなかったように思う。

食卓にからあげを見つけて初めて、

 

「あ、今日はからあげだ!」

 

と、喜ぶのが常だった。

不意の喜びであり、受身の喜び。

それがからあげの持ち味だと思う。

 

そんなからあげと密接にかかわれるようになったのは、

自分の考えで食事を選べるようになってからである。

 

大人になって、大好きなからあげを食べる回数がぐんと増えた。

 

ホカ弁を買いに行けばからあげ弁当があり、

居酒屋に行けば、ビールのお供としてからあげが必ずある。

ローソンではからあげくんという商品も発売されている。

子どもの頃から考えると、まるで夢のような話だ。

 

「大人になってよかったなぁ」

 

などと平和な顔で喜んでいたら、

なぜか九州方面から強烈な突っ込みが入った。

 

「そんなぬるい現状に喜んでいてもらっては困る!」

「からあげ好きを自認するならホカ弁や居酒屋程度で満足するな!」

「真のからあげ好きなら大分県中津市に来い!」

 

ん、大分県中津市へ来い……?

 

中津にいったい何があるというのだ。

気になった僕は、博多駅から特急ソニックに乗り中津へと向かった。

 

 

(左)福沢諭吉旧居。福沢諭吉が青年期まで過ごした。

(右)青の洞門。禅海和尚が掘ったトンネルで県の史跡に指定されている。

 

中津に到着し、地元に住む友人から話を聞くと、

衝撃的な事実がいくつも明らかになった。

 

「中津にはからあげの専門店が多いんだよ」

 

友人はこともなげにそう語り始めたが、

多いという以前に、専門店の段階で充分驚きである。

 

僕のイメージからすると、からあげは数あるお惣菜の中のひとつ。

コロッケや、メンチカツと並んで売られているのが常であり、

単品で勝負している店など、想像したこともなかった。

 

だが、中津にはからあげだけを売る店がたくさんあり、

地元の人にとっては、それがごくごく当たり前のことであるという。

しかも、その数が尋常ではない。

 

感覚としては1町内に1店舗以上。

 

生活圏内のどこかに必ずからあげの店があり、

食べたいときに困るようなことはありえないそうだ。

最近は競争が激化し、店が林立し始めているとも言う。

 

「うーむ、中津おそるべし」

 

驚いていると、運転席の友人が窓の外を指差す。

 

「ほら、あれがからあげの店」

「うわ、ほんとだ。看板に大きくからあげって書いてある!」

 

からあげの文字が、風景に見事溶け込んでいる。

なんとも奇妙な光景だが、それが実に自然だ。

 

「ほら、あそこもそう」

「あっちにもある」

 

町の至るところにからあげの店がある。

僕はもう、驚くしかなかった。

 

「昔からこんなにからあげの店が多かったの?」

「うーん、増え始めたのは20年前くらいからじゃないかな」

「20年前……。けっこう前からあるね」

「でも元祖格の店なんかは40年前からあるって言うよ」

「よ、40年……」

 

なるほど。それは町に溶け込んでいて当たり前だ。

 

「何年か前にケンタッキーが進出してきたけど、すぐに潰れたね」

 

友人はそう言って、にやっと笑った。

確かにこれだけ専門店が根付いている以上、

同じ土俵で勝負するのは分が悪すぎる。

 

アフリカに行ってコタツを売ろうとするようなものだ。

 

  

中津市には町の至るところにからあげの専門店がある。

 

友人が車で案内してくれたのは、元祖格とされる村上食堂。

 

耶馬溪の有名な観光地、青の洞門のすぐ近くにあり、

40年前の創業以来、からあげ一筋で営業を続けている。

 

この店のメニューはいたってシンプルで、

からあげと、からあげ定食の2点のみだ。

 

食事をしたい人は、ごはんや味噌汁などがつく定食を頼み、

持ち帰りにする人は、からあげをグラム単位で購入していく。

もちろん、その場でからあげだけを食べることも可能だ。

 

ちなみに村上食堂では頑固に骨付きだけを販売しているが、

他店では食べやすい骨なしも主流商品として提供している。

 

手羽先、手羽元、ナンコツなど部位別にも販売しており、

手羽中の肉をひっくり返したチューリップという部位もあるようだ。

一口にからあげといっても、その世界はかなり深い。

 

味付けも店ごとにそれぞれ工夫がある。

 

村上食堂では醤油味が前面に出る正統派の味わい。

それに対して新興の店では、ニンニクの味をきかせたり、

スパイシーに仕立てたりと個性を出している。

 

からあげの店が密集する中津市だからこその進化。

からあげの最先端が中津市にある。

 

  

元祖の店として名高い村上食堂。青の洞門からも近く一緒に立ち寄る観光客も多い。

 

当然、作り置きなどしないので、

注文するたびに揚げたてのアツアツが出てくる。

 

「からあげを美味しく作る秘訣って何ですか?」

 

フライヤーの横で、店の人に聞いてみた。

 

「うーん。やっぱり油だよね。油の温度を185度に保つこと」

「なるほど。185度ですか」

「あと油は何日も使うこと。油を変えてすぐはいい味が出ないんだよね」

「え、同じ油をずっと使うんですか?」

「うん。揚げていくうちに鶏の油が溶け出して味がよくなるんだ」

「へえー」

 

揚げ物の常識からすれば、油はこまめにかえるもの。

段々と色は悪くなっていくし、カラッと揚がりにくくもなる。

使い続けたほうがよいというのは衝撃的な話だ。

 

「となると家庭で同じ味を出すのは無理ですね」

「そうだね。そこはやっぱり店ならではの味だよね」

「うーん、そうですか」

 

感心しているうちに、目の前でからあげが揚がった。

 

油を切るためのバットにいったん着地させると、

衣のいたるところで油が弾け、ぷちぷちと音を立てている。

醤油の香ばしい匂いが、周囲にぶわっと広がった。

 

食欲をそそるなんてものではない。

食欲をわしづかみにして喰らいついて離さない。

その瞬間、僕は食欲の固まりになった。

 

早速、席に移動してからあげを食べる。

箸を持つのももどかしく、手でつかんでかぶりつく。

 

「あちっ!」

 

さすがに揚げたて。熱くて手でつかめない。

仕方ないので、片方を箸で固定し、もう片方を手で軽く支える。

テーブルに顔を寄せるようにしてからあげにかぶりついた。

 

衣のサクッとした歯ごたえ。むっちりした肉質。

醤油とニンニクの香りが鼻を抜けていく。

 

「あふ、あふあふ、あふい。あふいけどうはい」

 

はふはふ顔になりつつも、その美味しさに身悶える。

口の中は衣に染み込んだ油と、鶏の肉汁でたまらなくジューシーだ。

 

骨周りの肉や、軟骨にまでむしゃぶりついていく。

可能ならば、骨まで食べたいくらいの美味さ。

からあげってこんなにうまかったか、という味だった。

 

「うーん、やっぱり揚げたてはうまいなあ」

 

身悶える僕の前で、友人も感慨深げにうなる。

 

「地元の人が食べてもそうなの?」

「うん、やっぱり買って帰って家で食べることが多いからね」

 

揚げたての味。それはやはり最高の贅沢なのだろう。

 

 

中津のからあげは大変に美味であった。

だが、その味を堪能するためには、中津まで足を運ぶしかない。

 

からあげの頂点を極めた地域で、揚げたてを食べてこその味。

それがからあげの究極であると声を大にして言いたい。

 

大分県中津市はからあげ好きの聖地。

 

全国のからあげ好きは大分県中津市に行け!

 

アツアツのからあげは最高にうまい!

 

<美味なる料理データ>

美味なる料理 :からあげ

美味なるエリア:大分県中津市

美味なる種類 :肉料理

美味なる価格帯:100gあたり160190円程度

 

<美味なる料理リンク>

ニフティデイリーポータルZ からあげの街のからあげ食べ歩き

http://portal.nifty.com/special04/09/06/

 

 

 

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