書籍刊行情報
ズームイン朝!大作戦
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僕にとって1冊目の著書となった、 『八田式「イキのいい韓国語あります。」』が発売される直前。 出版社の編集者さんがこんなことを言った。 「あとは宣伝だよな。ズームイン朝!とか、テレビのロケ現場に行ってさ、自分の本を持って、何気に映りに行くってのはどうだ?毎日、毎日やってれば、あれは何だ?って話題になるぞ。きっと」 僕は話の流れで出た冗談だとばかり思い、 「あはは、そりゃ面白いですねぇ」 などと軽く答えたように記憶している。 だが、それが冗談ではなかったということを、 後の編集者さんとの会話で知る。 「行けっていったのに行かないんだもんなぁ」 「え、冗談じゃなかったんですか?」 「当たり前じゃん。テレビに出たらすごいんだよ」 「す、すいません……」 編集者さんの目は笑っていたが、 口ぶりは本気で残念そうだった。 そうか本気だったか。 僕は申し訳なさでいっぱいになった。 そして、いよいよ僕にとって2冊目の本が出た。 発売日は11月23日。ただしその日は祝日なので、 書店によっては前日の22日の段階で店頭に並ぶとのこと。 それに先立ち、やっぱり編集者さんからメールがきた。 ============================== テレビの「ズームイン朝!」オープニングで自主宣伝しませんか。 やるなら表紙を拡大してポスターつくります。 一週間くらい出続けると話題になるかも。 ============================== 編集者さんは別の人だが、今度も同じ提案がきた。 やっぱり考えることは同じなのか。それとも情報の引継ぎがあったか。 それはともかく、もう答えはひとつしかない。 「やらせて頂きます」 僕はそうメールを返した。 すると編集者さんはその日のうちに宣伝ボードを作製し、 僕の働いている会社の最寄り駅までわざわざ届けに来てくれた。 両手でないと抱えきれないくらいの大きな宣伝ボード。 全体がダンボールでガードされており、ずっしりと重かった。 僕はえっちらおっちら、家までそれを持って帰った。 22日の月曜日。 朝、5時半起きで家を出る。 朝の地下鉄は比較的空いていたが、 大きな宣伝ボードがあるので座ると邪魔になる。 立ったまま、ガタンゴトンと揺られていく。 目的地はもちろん汐留だ。 地下鉄から大江戸線に乗り換えて汐留駅着。 ほとんど誰も歩いていない地下鉄構内を、 僕は急ぎ足で日本テレビタワーに向かって歩いていく。 こういうとき、人はいろいろなことを想像するものだ。 事前のイメージトレーニングといえば聞こえはいいが、 あんなことになるかな、こんなことになるかなといろいろ妄想する。 ズームイン!朝に集まる人は多いんだよな。 ライバルがたくさんいて、押し合いへしあいになるかもしれない。 せめて宣伝ボードだけでも目立つところに置かないとな。 目立ちすぎて、ちょこっとインタビューなんか受けたりもするかな。 短い時間だけでも宣伝コメントとかできたらいいよな。 緊張しないようにセリフだけでも考えておくか。 えーと、この本は楽しくハングルを勉強できる本で……。 いや、硬い硬い。 もっと元気にいかないとな。 なにしろテレビなんだし。 えーと、みんなぁ、ハングルの練習帳だよぉ。 韓国語に興味ある人、ぜひとも買ってねぇ。 駄目だ。これではただのアホである。 などということを妄想しているうちに、 日本テレビタワーへとたどりついた。 当然のことながら、あたりには誰もいない。 あきらかにヒマそうな警備員がいたので道を聞いてみる。 「すいません。ズームイン朝!はどこでやってますか?」 「この上ですよ」 警備員のお兄ちゃんは無表情のまま上を指差した。 エスカレーターをあがっていくと、 ズームイン朝!の大きな看板が目に飛び込んできた。 「よし、ここだ!」 と、喜んだ瞬間。 看板に書かれている放送時間が目に入る。 <5:30〜8:00> え、5時半から? ズームイン朝!って7時からじゃなかったっけ。 僕は普段そんな早い時間に起きないので知らなかったが、 ズームイン朝!自体は3年前に終了しており、 今やっているのは「ズームイン!!SUPER!」という番組なのだった。 名前が変わっただけでなく、放送時刻も変更になり、 これまで7時から8時半の放映だったものが、 5時半から8時までになっていたのだった。 「がーん。こ、これでは番組スタートに間に合わないじゃないか!」 ショックを受けつつも、撮影現場へと急ぐ。 急ぎながらも、自分自身をなんとか落ち着かせようとする。 大丈夫だ。番組のスタートよりもむしろ、 終了直後のほうがうつるとネットには書いてあった。 スタートに間に合わなくても、最後で頑張ればよいのだ。 大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ……。 呪文のように「大丈夫」を唱えながら、撮影ブースらしき一角に到着。 ガラス張りの部屋の中に、スタッフや出演者の姿が見える。 どうやらちょうど生放送中のようだ。 近くにまた警備員のお兄ちゃんが立っていたので尋ねてみる。 「すいません。ズームインの撮影ってここでやってるんですよね」 「ええ、そうですよ」 「いつも後ろで宣伝とかしてるとこってここですか?」 「いえ、今はそれもうやってないです」 「え!?」 な、何ぃ?やってないだと? 「え、やってないんですか?」 「ええ、昔はやっていましたけど、今はないですね」 「そ、そうですか……」 「それ、宣伝用のものですか?」 「あ、はい……」 「特にそういうのはうるさいんです。営利関係のはまず駄目ですね」 警備員のお兄ちゃんはあくまでも無表情だった。 もしかしたら、たまにこういう人が来るのかもしれない。 いかにも面倒くさそうな表情であった。 「なんとなく立ってるだけとか駄目ですかね?」 「駄目です」 きっぱりと断られてしまった。 早くも頭の中に「作戦失敗」の4文字がぐるぐると回る。 せっかく朝早く起きたというのに、これでは無駄足。 なんとかしなければ……。 警備員のお兄ちゃんから少し離れ、 撮影ブースの様子をチラチラとうかがう。 出演者はこちらに背を向けており、その向こうにはカメラの姿も見える。 はっきりとはわからないが、カメラはこちらのほうを向いているようだ。 さりげなく宣伝ボードを掲げておけば、チラッとは映るかもしれない。 僕は警備員の死角になる位置まで移動し、 カメラの向きも計算しつつ、さりげなくボードを出してみた。 それなりに大きなボードなので、これならなんとか見えそうだ。 さらに目立つようにボードをゆさゆさと振り回してみる。 だが、世の中そこまで甘くない。 5秒もしないうちに、警備員が駆け寄ってきた。 「すいません。上から指示が来ましたんで、本当に止めてください。止めて頂けないと、強制的に排除しなければなりません」 警備員のお兄ちゃんは言った。 口調は今までどおり面倒くさそうな感じだったが、 お兄ちゃんも仕事は仕事なのでこれ以上見逃せないのだろう。 「お願いだから仕事増やさないでね」 と、言いたげなのが、目の奥から伝わってきた。 どうやら本当にこれ以上は無理そうだった。 仕方ない。僕は警備員のお兄ちゃんに一言侘び、 ズームインの撮影ブース前を離れた。 ということで、以上がズームイン朝!大作戦の顛末記である。 頑張って朝から行ったものの、さしたる結果は残せなかった。 しいていえば、こうして話のネタをひとつ作ったことくらい。 宣伝という目的としては、明らかに大失敗である。 その後、僕は汐留を離れ、 一駅隣の築地市場へと向かった。 ちょうど朝早い時間なので、市場の中で食事ができる。 汐留とはうってかわってにぎやかな場内で、 僕は食堂に入ってウニイクラネギトロ丼を食べた。 これが本当に絶品。 とろとろに甘いウニと、プチプチのイクラ。 そして脂ののったネギトロが、たまらなくうまい。 バクバクガツガツと、一瞬で食べ終えてしまった。 宣伝がほとんど収穫なしだったことを考えると、 むしろ今日の収穫はこちらだったのかもしれない。 |
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