書籍刊行情報

八田氏のドキドキ書店巡り

 

 

本が発売されて最初の日曜日。

自分の書いた本が、巷でどのように売られているのか。

あるいは売られていないのか。

ちょっとドキドキしながら調べてきた。

 

「見に行って、もしなかったら落ち込んじゃうな……」

 

という弱気の虫もウズウズと首をもたげたが、

ええい、そんなドキドキを体験できるのも今だけなのだ!

と勇気を振り絞って書店巡りをしてきた。

 

発売後、ホームページの掲示板には、

どこどこの書店で購入しました、という嬉しい報告が続いていた。

 

「大丈夫、きっとあるはずだ!」

 

と自分に強く言い聞かせ、僕は家を出た。

 

まず向かったのは地元のOブックセンターである。

レンタルビデオショップが併設された、この界隈では大きめの書店だ。

 

だが、その一方で、

「まあ、ここにはないだろう」

という軽い気持ちもあった。

 

いくらこの界隈で大きめとはいえ、

もともとが地元密着型の書店である。

なくて当然。まずは肩慣らしというところだ。

 

「えーと、語学、語学、語学……」

 

店の1番奥の角に、語学コーナーはあった。

本棚には各国の語学本が、入り乱れて同居している。

ざーっと眺めて、韓国語の群れを探していくと……。

 

「げ、あった!」

 

赤い表紙に、黄色い帯。

燦然の輝くツートンカラーはまぎれもなく僕の本だ。

 

ひゃあ、こんなにも身近な地元書店にまであるなんて。

あまりの驚きに、僕はしばらく呆然と立ちつくした。

やがて、じわーっと嬉しさがこみあげてくる。

地元の書店にあるというのは、やはり感慨もひとしお。

 

「僕すぐそこに住んでいるものなんですが、実はこれ僕が書いたんですよ。ふふん」

 

などと、店員さんに自慢しようかもと思ったが、

それではただのアホである。ぐっとこらえて店を出た。

 

 

だが、喜びはつかの間であった。

都内I駅にある大型書店Rでは1冊も発見できなかった。

地元のOブックセンターよりもはるかに大きいはずなのに、

ただの1冊とて見当たらない。

 

新刊書籍のコーナーにないのはまだしも、

語学本のコーナーにもまったく姿が見えない。

 

冬のソナタが週間ベストセラー第4位に選ばれていたり、

チョナンカンのチョンマルブックが新刊コーナーに山積みだったりと、

韓国関連の書籍はたくさんあったが、僕の本は一切なかった。

 

間違ってベトナム語やタガログ語の間に挟まっていないかと、

東南アジア言語からヨーロッパ言語の本棚までくまなく見たが、

予想通りやるだけ無駄の徒労であった。

 

「ちきしょう。2度とこんな店に来るもんか!」

 

明らかな逆恨みとともに、僕は店を出る。

顔面蒼白。意気消沈。足取りトボトボ。

やっぱり来るんじゃなかったという後悔の念が頭をよぎる。

 

唯一の希望は、すぐ正面にJ堂があることだった。

 

なにしろ、これまで寄せられた情報の中では、

J堂関連のものが1番多かったのだ。

 

僕のところに届いた購入第1報がJ堂であり、

また神戸のJ堂からは大量発見の報告まできていた。

 

ありがたいことである。

場所は違えど、同じJ堂。

 

「ここには絶対あるはず。なかったら今日はもう帰ろう」

 

弱気120%の気持ちで、僕は語学本コーナーに向かう。

 

立ち読みする人の間をくぐり抜けながら、韓国語の本棚を探していく。

ドイツ語、ロシア語、中国語……。あった、韓国語コーナー。

 

韓国語コーナーでは4人が立ち読みをしていた。

立ち読みの後ろをカニ歩きですりぬけ、背中と背中の間から本棚を眺める。

 

「うおっ、あった!」

 

なんと表紙がこちらを向いて、本棚に並べられているではないか。

いわゆる「棚差し」ではなく、「面出し」の状態。

黄色い帯越しに僕のマヌケ顔がのぞいている。

 

思わず手を伸ばして、後ろに何冊あるのか数える。

 

1、2、3、4、5、6、7、8、9……10。

 

なんと10冊もの本が、ビシッと整列していた。

 

「すげえ……」

 

ふと見ると、作業中らしき台車がそばに置いてあり、

そこにも近所の本と並んで僕の本があった。

 

本棚に10冊。台車に4冊。

この4冊は、いずれ売れたら補充されるのだろうか。

どこか控え選手という感じで、お前らがんばれよと思ってしまう。

 

「そうか、14冊もあったかあ……」

 

僕はしみじみと満足した気持ちで自分の本をニコニコと眺めた。

 

すると、そこで事件が起こった。

 

さきほど立ち読みしていた4人のうち1人が、

なんと僕の本を手に取って読み始めたのである。

 

「おおっ、エライ。あんたはエライ。誰だか知らんけどエライ!」

 

途端に興奮し、心の中で拍手喝采。万歳三唱。

心臓をバクバクさせながら、息を潜めて様子をうかがう。

 

読んでる。読んでる。読んでる。読んでる。

 

一体どのあたりを読んでいるのだろうか。

どんな気持ちで読み進んでいるのだろうか。

もう気になって気になって仕方がない。

 

ハラハラドキドキしながら観察していると、

すぐ横で連れらしき人物が、同じように立ち読みを始めた。

 

「おおっ、ダブルで俺の本か!?」

 

明らかに挙動不審ではあるが、後ろからそーっとのぞいてみる。

 

だが、それは僕の本ではなく、

チョナンカンのチョンマルブックだった。

 

「ちっ、俺の本じゃなかったか。見る目のないヤツめ」

 

心の中で激しく舌打ちをし、苦々しい目で背中をにらみつける。

表情はあくまでも平静を装っているが、心中穏やかではない。

 

だが、そのチョンマルブックを手に取った人は、

パラパラとしばらくめくっただけで、すぐに本を元に戻した。

 

見ると、僕の本を立ち読みしている人はまだ読み続けている。

 

「おおっ、立ち読み耐久時間でチョナンカンに勝った!」

 

心の底からじんわりと嬉しさがこみ上げてきて、

僕は思わず後ろから2人をぎゅっと抱きしめたくなった。

だが、それをしてはただの変態である。

 

結局、僕の本を立ち読みしていた人は、

2分ほど読み続けたが、購入までは至らなかった。

その点のみ残念ではあったが、嬉しさは嬉しさとして残った。

 

 

その後僕は1日かけて都内の書店をぐるぐる回った。

どさっと置かれているところもあれば、まったく姿が見えないところもあった。

 

書店を回るだけで一喜一憂。

こんな珍しい体験はそうそうできるものではない。

すべては本が出たおかげである。

 

ちょっとドキドキする書店巡り。

次はいつできるのかなあ……。

 

 

 

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