コリアうめーや!!メルマガバックナンバー

コリアうめーや!!第99号

 

 

<ごあいさつ>

4月15日になりました。

新学期を迎え、花見シーズンも過ぎ去り、

花粉症の諸症状もいくらか楽になってきました。

連発するクシャミに悩まされることもなし。

たれ落ちる鼻水に慌てる必要もなし。

目のかゆみからコンタクトレンズをあきらめ、

眼鏡生活を続けておりましたが、それもそろそろ卒業のようです。

いやあ、本当に今年はきつかったですね。

去年、一昨年まではほとんど症状らしい症状がなかったのですが、

今年は何も手につかないほど、苦しめられた気がします。

韓国に行っているときだけは楽なんですけどね。

スギの木がほとんどない韓国に、

この時期だけ毎年行くことにしようか思案中です。

さて、今号のコリアうめーや!!ですが、

前号に続き釜山の郷土料理を語ってみたいと思います。

ソウルにもまったく同じ料理があるのですが、

ソウルと釜山ではずいぶん違うという珍しい料理です。

コリアうめーや!!第99号。

地域差をアピールする、スタートです。

 

<釜山のタコ炒めはつゆだく上等!!>

高校生の頃、友人のひとりがある発見をした。

 

「おい、みんな。カップ焼きそばは焼いてないぞ!」

 

最初、僕らは彼の主張をよく飲み込めず、

は? チミはいったい何を言っておるのかね、という顔をしていた。

彼は僕らの無反応に興奮し、よりいっそう熱く語りはじめた。

 

「いいか、カップ焼きそばはお湯を入れて作るんだぞ」

「焼きそばを名乗る以上、麺は焼かなければならないはずだ」

「にもかかわらず、この商品は麺を茹でているではないか」

「諸君、この商品はカップ『茹で』そばなのだよ!」

 

僕らの間には、しばし「ふーん」という空気が広がった。

彼の指摘は正しいけれども、だからどうなのだという側面もある。

 

ただ、その指摘はちょっとだけ面白かったので、

僕らの間ではしばらく「茹でそば」の呼称が流行した。

 

「おい、ぺヤングソース茹でそば買いに行こうぜ」

「いいねえ、俺は日清ソース茹でそばUFOにしようかな」

「スーパーカップ大盛りいか茹でそばもうまいぜ」

 

どのみちアホな高校生である。

しばらくわっと騒いで、後は波が引くようにきれいさっぱり忘れた。

 

 

料理名と料理法が一致しないというのはよくあることで、

日常生活の中でも、意識せずになんとなく使っていることが多い。

 

いちばんよく指摘されるのは関東風のすき焼きだろう。

 

割り下で牛肉を「煮て」いるにもかかわらず、すき「焼き」とは何事だ。

特に関西風のすき焼きに親しむ人からの指摘が多いようだ。

 

確かに道理かもしれないが、これを追求するとややこしいことになる。

 

コンビニのおにぎりは手で握らず、型から抜くのでおにぎりではない。

鍋で茹でたうどんは、釜あげうどんとは呼べない。

親子丼は、卵を産んだ牝鶏を即シメねば厳密な意味での親子丼ではない。

 

正確さを求めれば求めるほど、立てる目くじらは増えていく。

 

そんなのどうでもいいじゃん、という人にとってはなんでもないが、

いや、きっちりしてくれなければ困る、という人には難しい世の中となる。

僕は明らかに後者なので、日々イライラはつのるばかりだ。

 

これだからA型人間は困る。

 

 

そんな折、韓国からとある情報が入った。

 

なんでも釜山に矛盾した名前の料理があるらしい。

その料理は「炒めない」にもかかわらず、「○○炒め」を名乗っているという。

炒めるどころか、大量の煮汁で「煮て」いるそうだ。

 

いわば、すき焼きの「炒め」バージョン。

 

調理法を偽ったネーミングで消費者を混乱させている。

 

「そいつはけしからん!」

 

僕はA型人間の無駄な正義感を200%発揮して、

釜山までその「○○炒め」を叩きのめしに行って来た。

 

 

(左)チャガルチ市場からのぞむ釜山の海。

(右)龍頭山公園に立つ釜山タワー。

 

釜山に到着すると、その「○○炒め」の詳細な情報がわかってきた。

 

どうやらその「○○」とは、タコのことらしい。

韓国でよく食べられている、テナガダコの炒め物。

ナクチボックムと呼ばれる料理が、問題の料理であった。

 

ナクチボックムといえば、テナガダコを野菜と甘辛く炒めた料理。

 

ナクチがテナガダコを表し、ボックムが炒め物を表す。

ソウルでは、鉄板で炒めて作るスタイルがほとんどだ。

 

テナガダコは足(名前からすれば手)の長いタコなので、

ぶつ切りにした足の、プリプリした食感が味の決め手となる。

そのプリプリを激辛の味付けで食べるのが、ナクチボックムの醍醐味だ。

 

さらに調べていくと、釜山式のナクチボックムは、

凡一洞(ポミルドン)という町でよく食べられていることもわかった。

その町のハルメチプ(おばあちゃんの家)という店が元祖らしい。

 

釜山式のナクチボックムが、炒めずに煮て作るものであるならば、

すべての誤解はその元祖の店がもたらしたことになる。

 

「悪の元凶に天誅をくらわしてくれる!」

 

僕は風速20メートルの鼻息で、凡一洞のハルメチプに乗り込んだ。

 

  

(左)炒めて作るナクチボックム。

(中)市場で売られているテナガダコ。

(右)凡一洞にある元祖ハルメチプ。

 

店に入って席につくと、まずおばちゃんが注文をとりに来た。

 

「何にします?」

「ナクチ、ボックム! をください」

 

炒め物を意味する「ボックム」のところに力を込めた。

自分は「炒め物」を所望しているのだという、はっきりした主張。

これで何があっても、言い訳はできまい。

 

ところが、その注文に意外な反応が返ってきた。

 

「普通のナクチボックムでよろしいですか?」

 

普通の? 普通とはいったいどういうことだ。

 

反射的にハトマメ顔で聞き返すと、

さらなるプラスアルファがあるとのことだった。

 

「エビを加えたものと、ホルモンを加えたものもありますよ」

 

ナクチ(テナガダコ)に、エビ(セウ)を加えたナクセボックム。

ナクチ(テナガダコ)に、ホルモン(コプチャン)を加えたナッコプボックム。

そして、エビとホルモンの両方を加えたナッコプセボックムがあるらしい。

 

そんなオプションはソウルでも聞いたことがない。

どうやら釜山のナクチボックムはずいぶん違う料理のようだ。

 

「じゃあ、そのナッコプセボックムで」

 

せっかくなので3種類全部入っているものを選ぶ。

 

 

ナクセボックム(左)とナッコプボックム(右)。それぞれ左下にあるピンク色の具が、エビとホルモン。

 

予想外の展開に動揺を覚えつつ、ナッコプセボックムの登場を待つ。

 

さりげなく周りの様子をうかがうと、

どこのテーブルもなにがしかのオプションをつけているようだ。

特にエビを追加したナクセボックムが人気らしい。

 

「うーむ、むしろナクセボックムのほうがよかったか……」

 

少しの後悔に唸っていると、注文のナッコプセボックムがやってきた。

テーブルの中央にしつらえたコンロに、円形の大きな鍋が置かれる。

 

表面にはホウレンソウ。その隙間からぶつ切りにしたテナガダコ、

100ウォン玉ほどの小さなエビ、そしてホルモンの姿が確認できる。

タマネギや、長ネギ、春雨(タンミョン)なども入っている。

 

ホウレンソウが表面を覆って中がよく見えないが、どうやら煮汁もありそうだ。

この時点で、この料理が「ボックム=炒め物」でないことは確定した。

 

「むぅ、これはけしからん。けしからんが……じゅるっ」

 

唐辛子の煮える刺激的な香りが鼻腔を襲う。

ほんのりと甘い香りで、いかにも食欲をそそる感じだ。

 

ホウレンソウがしんなりしてきたところで、店のおばちゃんが再登場。

 

全体をわさわさかき混ぜると、予想通り鍋の底から大量の煮汁が出てきた。

もはやどう見ても炒め物ではなく、鍋物としか見ることができない。

 

「実にけしからん。けしからんが……ん、ん、グビリ」

 

鍋の表面では真っ赤な煮汁がブクブクと弾ける。

ぶつ切りのテナガダコはツヤツヤピンピンして新鮮そうだ。

その横でエビとホルモンが、かわるがわる煮汁に浮いては沈む。

 

くー、これはたまらん!

 

というところで、おばちゃんから声がかかった。

 

「さ、できましたよ」

「待ってましたぁ!」

 

放たれた野獣。欲望と抑圧の解放。

ギリギリに引かれた弓矢は、ひょうと音を立てて飛んでゆく。

この瞬間、僕はそれまでの「けしからん」をすべて忘れ、

ナッコプセボックムへの一斉突撃を開始した。

 

まずはスープを一口すする。

口の中にこってりと濃厚な甘みが広がる。

 

ソウル式では辛さが前面に出るが、釜山式は甘みのほうが強いようだ。

 

食べ進むにしたがって辛さは次第に強まっていくが、

甘みの強い、こってり味がベースをしっかりと支えている。

また、煮汁の豊富さが辛さを適度に抑えてくれるようでもある。

 

テナガダコをかじってみると、これがまさに煮えごろ。

歯触りがプツンと心地よく、煮汁があるぶんよりジューシーに感じる。

 

テナガダコと野菜の合間に顔をのぞかせる、

プリッとしたエビ、トロッとしたホルモンもおいしい。

 

そしてこの甘辛さは、焼酎や白ごはんとよく合う。

 

 

拡大    

調理始めのナッコプセボックム(左)とその調理完成後(右)。右の写真はクリックで拡大可能。

 

鍋ひとつたいらげるのに、ほとんど時間がかからなかった。

僕は身も心も大満足となり、ベルトの穴をゆるめて荒い息をつく。

 

いやあ、釜山のナクチボックムはやっぱりうまかった。

 

ソウル式のナクチボックムもいいが、釜山式も負けず劣らずうまい。

エビやホルモンが入ることを考えると、ソウル式より上を行くかもしれない。

バリエーションの豊富さでは、文句なしに釜山式の勝利だ。

 

にっこり笑顔のまま、そんなことを考えていた。

 

そこへひょいと頭をかすめる記憶のかけら。

 

「あれ、何か目的があってここへ来たんじゃなかったっけ」

 

だが、幸せな満腹感が邪魔をしてうまく思い出せない。

 

うーんと、何かけしからんことがあったような……。

えーと、えーと、なんだっけな。けしからん、けしからん。

どうもうまく思い出せない。えーっと……。

 

あ、じゃあ、きっとこういうことかな。

 

結論。

 

釜山のナクチボックムは、けしからんほどウマイ!

 

プリプリのテナガダコがけしからんほどウマイ。

 

<おまけ>

釜山のナクチボックムは別名をチョバンナクチと呼びます。チョバンとは漢字で朝紡と書き、かつて凡一洞にあった朝鮮紡績という会社の略称のこと。朝鮮紡績のすぐ近くで食べられるナクチボックムという意味で、チョバンナクチという名前がつけられたそうです。また便宜上、本文ではソウル式と釜山式に分類しましたが、いわゆる炒めて作るナクチボックムは韓国全土で食べることができます。必ずしもソウル式というわけではなく、ソウルなどで普通に食べているナクチボックムという意味でとらえて頂ければ幸いです。

 

<お知らせ>

チョバンナクチの写真がホームページで見られます。

よかったらのぞいてみてください。

http://www.koparis.com/~hatta/

 

<八田氏の独り言>

ついに次号は100号です。

なんだか夢のような話ですねえ。

 

コリアうめーや!!第99号

2005年4月15日

発行人 八田 靖史

hachimax@hotmail.com

 

 

 

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