コリアうめーや!!メルマガバックナンバー

コリアうめーや!!第64号

 

 

<ごあいさつ>

11月になりました。

そろそろ冬の声が聞こえてくる頃です。

八田氏の住んでいる東京は、

ここ数日、気持ちのよい秋晴れが続きました。

すかーんと雲ひとつない青空を見ていると、

幸先よく11月を迎えられそうな気がします。

なんでも辰年の八田氏にとっては、

この11月こそが今年最高の運勢なのだそうです。

逆に10月は今年最低の運勢。

そういえば風邪もひいたし、やけに慌しい1ヶ月でした。

その苦労がいよいよ報われるのでしょうか。

11月は八田氏の月。

何か大きなことが起こることを期待します。

コリアうめーや!!第64号。

ドカンと勝負のスタートです。

 

<スンデにまつわる阿鼻叫喚の物語!!>

時はさかのぼって1999年秋。

 

留学生として韓国に来たばかりの僕は、

ミンソギとスヨンという2人の韓国人と食事にでかけた。

ミンソギは1つ年上の男の子。スヨンは2つ年下の女の子だ。

 

「お腹空いてる?」

「空いてる、空いてる」

 

パン1かけを朝にかじったきりの僕は、

早送りのハトのような勢いでクビを縦に振った。

 

「この近くに行きつけの店があるんだけど……」

「行こう、行こう。そこに行こう」

「嫌いなものないよね」

「ないっ!」

 

が、その軽率さが、時に大きな後悔を生む。

行きつけという店の前でミンソギが言った。

 

「この店はスンデボックムがうまいんだ」

 

その瞬間、僕の顔がさっと青ざめる。

紅顔の美少年、ネガポジ逆転の瞬間である。

 

  

ソウルの新林洞にある元祖民俗スンデタウン。ビル全体にスンデ料理の専門店が集まっているという、スンデ好きにはたまらない場所だ。

 

スンデとは、いわゆる腸詰めのこと。

豚の腸に、もち米や春雨、野菜などを詰めて茹でたものである。

一口大の輪切りにして、粗塩や味噌につけて食べる。

プリプリとした歯触りに、独特の風味がたまらない。

 

色がややどす黒く、一見するとグロテスクでもある。

この色は材料に豚の血が加えられているためで、

食べてみると独特のクセがある。

 

このクセでスンデは「超好き派」と「絶対ダメ派」に大きく別れる。

 

僕は今でこそ「超好き派」であるが、

当時は臭いを嗅ぐのも嫌というくらいの「絶対ダメ派」であった。

瞬間的に青ざめたのはそのためである。

 

 

ミンソギが案内したのは、なんとなく小汚い印象の店だった。

狭い店内に、暗い照明。客も僕らのほかにはいなかった。

年季の入った鉄板が、食卓にぽつんと置かれている。

 

座ってスンデボックムを注文すると、

無愛想なおばちゃんが厨房からなにやら運んで来て、

鉄板の上にドサドサとあけていった。

 

キャベツ、タマネギなどの野菜に加え、

これでもかというくらいたっぷりのスンデ。

スンデは一口サイズに切られており、中の春雨が顔をのぞかせている。

 

唐辛子ベースの真っ赤なソースがかけられており、

このソースを全体に絡ませ、馴染ませながらジュージューと炒めていく。

スンデボックムのボックムとは「炒める」という意味なのだ。

 

  

  

(上左)スンデはさまざまな内臓とともに供されることが多い。

(上中)全羅南道の潭陽地方で作られる伝統的なアムポンスンデ。

(上右)小腸でなく大腸を用いたアバイスンデ。

(下左)釜山をはじめとした南部地方ではスンデを味噌につけて食べる。

(下中、右)スルメイカの腹に具を詰めたオジンオスンデ。

 

しばらくすると、戦闘的な匂いがしてきた。

 

「さあ、そろそろ食べられるよ」

 

スヨンが皿に取り分けてくれた。

山盛りである。もちろんスンデも山盛りだ。

 

それまで僕がスンデを食べたのはたった1度きり。

友達が食べているのをひとつだけつまんだのだが、

あまりの生臭さに、飲みこむだけでも一苦労だった。

 

だが、このスンデボックムは、

生臭いスンデを辛いソースで炒めている。

野菜もたっぷり入っているし、韓国モチなどの姿も見える。

 

これなら大丈夫だろうか。

僕は恐る恐る口に入れてみた。

 

う……ん、そんなに嫌ではない。

辛いソースがべったりと絡まっているので、

生臭さがずいぶん緩和されている気がする。

 

だが、食べ進むにつれて徐々に箸の動きが鈍くなっていった。

 

嫌いな食べ物というのは、

どうして他の食材までをも強烈な個性で殺してしまうのだろう。

スンデを避けて、キャベツやモチなどをつまんでいるにもかかわらず、

特有の臭いが気になって、うまく喉を通らない。

 

スンデを微妙によけて食べている僕が、

なにやら遠慮でもしているように見えたのだろうか。

 

「さあさあ、たくさん食べなよっ!」

 

とミンソギがにこやかな笑顔で、

スンデをさらに山盛りにしてくれた。

 

「よ、余計なことを……」

 

と思ったが、口には出せない。

 

無理もない。スンデがメインの料理である。

せっかく連れて来た外国人が野菜ばかり食べていたら、

それはスンデのほうをすすめるだろう。

 

僕にとっては非常にありがた迷惑な話だったが、

まさかここまできてスンデが嫌いだとも言えない。

 

いや、口に合わないと言ってしまえばそれはそれでよかったのかもしれない。

しかし、小心者の僕に、それを選択する勇気はなかった。

 

山盛りのスンデを「いやー、うまいねえ」などとほざきながら、

やけくそで口の中に押し込んでいく。

 

「うん、うまい。お水もう1杯もらえるかな」

 

口いっぱいのスンデを水で無理に流し込んでいく。

 

  

  鉄板で調理するスンデボックム

 

水で流し込み始めたところで、突如腹痛が襲ってきた。

食べつけないものを食べたということに加え、

食べなければというストレスが、胃腸関係にダメージを与えたようだ。

 

「ぐー、きゅるる、きゅるるるるー」

 

突発的な腹痛にしては、かなりシビアな状況。

 

「ぐるる、ぐるる、ぐるるるるるー」

 

むむむ、これはまずい。

このまま食べ続けると大変なことになりそうだ。

どうする? どうする?

 

「えーい、こんなもの食ってられるかー!!」

 

とテーブルを思いきってひっくり返し、

その勢いでその場を立ち去ってしまう、という作戦を本気で考え始めたそのとき。

僕の頭の中に素晴らしいアイデアがぴっかりと閃いた。

 

「いやー、うまいけど、これはちょっと僕には辛いね。

お水もう一杯もらっていいかな。いやいや、辛い辛い。はひー」

 

我ながらよい思い付きだった。

 

辛くて食べられないという言い訳は、

口に合わないという言い訳よりも相手を傷つけず、また仕方なさ度が強い。

 

スンデボックムはおいしいのだが、辛くてこれ以上食べられない。

僕はわざとらしく舌を出してハアハアしながら、

本当に残念だということを必死でアピールした。

 

ミンソギとスヨンはおおいに納得し、

僕の作戦は大成功だった……かに見えた。

 

次の瞬間。

ミンソギは思いもよらぬ行動に出る。

 

店の人を呼び、さらに何かを注文。

しかも僕のほうを指差したりして、何らかの対応策を講じているようだ。

不穏な空気におびえながら事の成り行きをうかがっていると、

店のおばちゃんが大きめの皿を携えて再度やってきた。

 

皿の上にはごはん。

そしてノリやゴマ、刻んだ葉野菜なども乗せられている。

おばちゃんはそれらの材料をどどっと鉄板の上に投入し、

ゴマ油をかけまわすと、そこへ先ほどの唐辛子ソースをもう1度振りかけた。

 

そこでスヨンが慌てて口を挟む。

どうやら僕のために、あまり辛くするなと言っているようだった。

 

無言のままその一部始終を見つめていると、

やがて鉄板の上ではスンデチャーハンができあがった。

 

見事としか言いようがなかった。

 

辛くて食べられないという外国人のために、

ごはんを混ぜ込むことで辛さを緩和する。

僕の見出した逃げ道は、完全に封鎖されてしまった。

 

できるだけ辛くないようにとの配慮であろう。

辛さが染み込みやすい野菜、ごはんは少なく、

またもスンデが山盛りになって僕の前にチャーハンが取り分けられた。

 

彼らの好意を前に、食べないわけにはいかない。

僕は覚悟を決めてスプーンを握った。

スンデを避けごはん部分だけをそっと口に運んでいく。

 

ほんっっっっとうにどうして嫌いな食べ物というのは、

他の食材までをその強烈な個性で殺してしまうのだろうか。

チャーハンにされてまで生臭い。

ごはん全体がスンデ臭い。

 

「ぐるる、ぐるるる、ぐるっきゅるるるるー」

 

もう限界だった。

 

食事中にトイレに行くのはマナー的にもあまりよいことではない。

またミンソギだけならまだしも、女の子のスヨンが一緒である。

マナー云々よりも、男としてカッコ悪い。

 

だが、もうそんなことを言っている場合ではなかった。

事態は逼迫しており、速やかなる対処が求められていた。

 

僕は考える。

ウンコをしていると悟られないように、ささっと行って、

すばやく帰ってこればなにも問題はないはずだ。

 

なにしろこの先もスンデと戦えるように、

コンディションは少しでも良いほうに持っていかねばならない。

よし、そうだ。素早く行って素早く戻ってこよう。

 

さりげなく「ちょっと失礼」などと言ってトイレに立つ。

お世辞にも綺麗とは言えないトイレにかけ込み、

僕はほっとした気持ちでしゃがみこむ。

 

さあ、勢いよくぶっ放すぞというところで、ふと気がついた。

 

 

あれ、ここ紙あるのかな?

 

 

目に見える範囲にトイレットペーパーはない。

ちょっと待てよと踏みとどまってズボンを上げ、

あたりを見まわしてみたがやはり紙は見当たらない。

 

「やや、これはちょっとまずいな……」

 

括約筋に力を込めつつ、紙のありそうなところを探していく。

掃除用具入れのようなトビラを開けたりもしてみたが、やはり紙はない。

トイレの窓を開けて外を見ても当然なにもない。

 

ポケットティッシュも持っておらず、

紙の代わりになるようなものもない。

 

「うむむ、これは本格的にまずいな……」

 

あちこち見まわしてみるが、もう探すようなところもない。

どうするどうするどうする?

 

このままさもすっきりしたかのように出ていって、さらに耐える。

 

「そんなことできん!!」

 

このままぶっ放して拭かずに出る。

 

「ますますできん!!」

 

このままトイレから出て2人に紙がない旨を伝え、

店の人に頼んで紙を出してもらう。

 

「そんなカッコ悪いこと絶対できん!! ウンコバレバレではないか!!」

 

カッコ悪いから、カッコ悪いけど、カッコ悪くても……。

 

「ぐるっ、ぐるっ、ぐるるる、ぐるるぐるっ、きゅるるるるー」

 

ああっ、もうダメ。

僕はトイレから出て泣きそうな顔で言う。

 

「えーと、トイレ行ったら紙がないんだけど……」

 

<お知らせ>

スンデの写真がホームページで見られます。

よかったらのぞいてみてください。

http://www.koparis.com/~hatta/

 

<お知らせ2>

『八田式「イキのいい韓国語あります。」韓国語を勉強しないで勉強した気になる本』は好評発売中です。八田氏の素顔を知る人たちがホームページにブックレビューを書いてくれました。

http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm

 

<八田氏の独り言>

ミンソギとスヨンは実名ではありません。

当時のスンデ嫌いは今も秘密なのです。

 

コリアうめーや!!第64号

2003年11月1日

発行人 八田 靖史

hachimax@hotmail.com

 

 

 

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