コリアうめーや!!メルマガバックナンバー

コリアうめーや!!第130号

 

 

<ごあいさつ>

8月になりました。

これでいよいよ夏気分も真骨頂。

梅雨が長く雨がちだった7月を押しのけ、

青空と入道雲の下、高笑いしたい気分です。

そして毎年この時期になると語っておりますが、

明日8月2日はワタクシの誕生日。

今年はいよいよ大台に乗るとありまして、

すでにたくさんの方から祝って頂きました。

特に年上の友人からは「ようこそ!」の声があったりも。

さようなら20代。こんにちは30代。

さらに実りのある10年を生きるべく、

今後も精進していきたいと思います。

さて、そんな20代最後のコリアうめーや!!ですが、

ちょっと珍しいものを頂いての料理報告です。

韓国料理の奥深さをさらに深く覗いてゆく。

そんな貴重な体験をするに至りました。

コリアうめーや!!第130号。

ふと見れば、号数も「30」でのスタートです。

 

<自宅でコトコト煮込むタンバーワン!!>

韓国人を対象としてアンケート調査を行い、

その結果を集計、分析して発表すること。

 

僕が留学生時代に通った語学学校では、

このような課題がしばしば出された。

韓国語がそれなりに話せるようになってからの課題だが、

難易度は高く、毎回悪戦苦闘するのが常だった。

 

なにしろアンケート調査そのものが韓国語との戦い。

 

自分の言いたいことを相手に伝えるのはもちろん、

相手の回答も正確に理解せねばならない。

ペーパー式の場合はまだいくらか楽だったが、

インタビュー形式のときはいつも半泣き状態だった。

 

また、アンケートがうまく回収できたとしても、

それをまとめた上で、さらに韓国語を使っての発表。

半端な語学力では、常に土俵際での綱渡りだった。

 

僕が賢かったのは、かなり早い段階で苦労を覚悟し、

 

「よし、難しい課題はすべて食関係で乗り切ろう!」

 

と腹をくくったことである。

自分の得意分野なら語学力の不足もカバーできる。

 

「困ったときの食頼み!」

 

を合言葉に、僕は卒業をもぎ取った。

 

だが、今になってその頃のレポートを読み返してみると、

とんでもない結論でまとめていたりして涙が出る。

 

例えば2000年8月に僕がまとめたレポート。

僕は2〜30代の韓国人35名にアンケート調査を行い、

韓国料理と季節感の関係について発表した。

 

そのときの結論がこれ。

 

 

「韓国料理に季節感などない!」

 

 

見た瞬間に目がテン。そして呆然。

いくら6年前と言えど、これはあまりな結論である。

しばらく固まった後、怒りがフツフツとこみ上げてきた。

 

「ちょ、ちょっと待て、そこの俺!」

「本当にその結論でいいのか? 本当に季節感はないのか?」

「お前が無知なだけじゃないのか? おい! なあ!」

 

血圧は限りなく上昇し、呼吸もゼイハアと荒くなる。

 

少し冷静になってアンケート部分から見直してみると、

そもそも質問の仕方からしておかしい。

 

Q1、春と言って思いつく料理は何ですか?

Q2、夏と言って思いつく料理は何ですか?

Q3、秋と言って思いつく料理は何ですか?

Q4、冬と言って思いつく料理は何ですか?

 

いかにも手抜きで、やっつけな質問構成。

こんなのを並べるだけでは、答えなど十人十色もいいとこ。

事実、協力してくれた友人たちの答えは見事なまでにバラバラで、

例えば秋の回答だけを見ても、

 

「秋夕(旧盆)に作るソンピョン(松葉と蒸した餅)かな」

「キノコが美味しい時期だからポソッジョンゴル(キノコ鍋)」

「寒くなりかけの時期にはキムチチゲが食べたいね」

 

と、まるでまとまりがない。 

結果として1位になったのが何故かマンドゥクク(餃子スープ)。

当時の僕はそのバラバラ加減を見て、

 

「うん、韓国にこれといった季節料理はないんだな!」

 

という強引な結論を導き出したのである。

おそらくそのときの僕としては、

 

秋の料理ベスト1、サンマの塩焼き(20人)

秋の料理ベスト2、マツタケの炭火焼き(10人)

秋の料理ベスト3、栗ごはん(5人)

 

などというキッパリした答えを想像していたのだと思う。

 

今であれば歳時風俗や旬を考慮した季節料理も語れるが、

その当時は身の回りにある、食堂や学食の料理だけが韓国料理。

韓国の食文化についてなどまるで知らないも同然だった。

 

可能ならば6年前に戻って、説教でもしに行きたいくらい。

目の前に人差し指を突き立てながら、

 

「この無知無知プリンが!」

 

などと恥ずかしいあだ名で罵倒してやるところだ。

 

 

 

韓国の秋と言って思いつく食べ物の数々。左上は漢字で「鰍魚」と書くドジョウのスープ(チュオタン)。秋に旬を迎えるマツタケ、タイショウエビなども有名。右下はポッキーに似た韓国のお菓子「ペペロ」。1111日はペペロデーと呼ばれ、ペペロを贈り合う習慣がある。

 

といった具合に、強引な発表ばかりしていた僕だが、

無理やりなりにも継続したおかげで、身に残ったこともある。

 

例えば、

 

「韓国を代表する料理は何か?」

 

という質問を設けた際、大部分がキムチと答える中、

わずかに2名だけが「タン」であると答えた。

語学学校の男性先生と、仲間内で食通と一目置かれる友人。

奇しくもその理由までもが、

 

「韓国固有の料理であり他国に類例を見ない」

 

ときっぱり一致していた。

 

ちなみにここで言う「タン」とはスープ料理のこと。

漢字では「湯」と書き、一部の鍋料理も含む。

種類としては牛、豚の各部位を煮込んだスープが多い。

 

韓国にはこうしたタン料理の種類が豊富で、

例えば牛を例にとって列挙するだけでも、

 

・ソルロンタン(牛の各部位)

・コムタン(牛の各部位)

・カルビタン(牛の肋骨)

・コリコムタン(牛の尻尾)

・ネジャンタン(牛の内臓全般)

・トガニタン(牛のヒザ軟骨)

・ウジョクタン(牛の足)

・マナタン(牛の脾臓と膵臓)

・ヤンタン(牛の胃)

 

と、いった感じにずらずら出てくる。

 

タンという名称でこそ呼ばれないが、

牛の頭を煮込んだソモリクッパプも同系統の料理。

ソモリというのが「牛の頭」を表す。

 

頭から尻尾の先までタン料理となるのがわかる。

 

これらタン料理は部位を代えて煮込むことによって、

またそれぞれ違った味わいを楽しめるのが大きな特徴。

通常ならばあまり食肉として使われない部位も、

じっくり煮出すことによって、立派な主役に生まれ変わる。

 

1度の調理で大人数の食事をまかなうことが出来る上、

ごはんを混ぜ入れて食べることで手軽に腹を満たせる。

煮込んだ肉は具として食べるので、食材も余さず利用できる。

 

他国に類例を見ないとまで言えるかはわからないが、

確かに古くから庶民層に愛された、韓国ならではの料理だ。

 

僕はそのときのキッパリした回答に衝撃を受け、

 

「そうか、韓国料理はタンなのだ!」

 

と一途にその説を支持するようになった。

その姿勢は韓国料理タン第一主義とも言うべきもので、

 

「タンイズナンバーワン! 略してタンバーワン!」

 

をスローガンに広報活動と普及に努めてきた。

事実このメルマガでも、多くのタンを紹介している。

 

代表的なところでは第35号のカルビタン、

第51号のソルロンタン、第117号のコムタンなど。

いずれもハイテンションで魅力を語っている。

 

 

 

韓国のいろいろなタン。ソルロンタン(左上)、コムタン(右上)、カルビタン(左下)、トガニタン(右下)。どれもスープにごはんを入れて食べると美味しい。

 

そんなタン熱愛者である僕のところに、

先日、思いもかけない頂き物があった。

 

親しくしている韓国料理店のお母さんが、

 

「いっぱい煮たから持っていきなさい!」

 

と、大量の牛アキレス腱をくれたのである。

いかにも韓国人らしく、たっぷりかつ目一杯。

ひと抱えもあるタッパーがズシリと重かった。

 

「うひゃー、これ牛の足何本分?」

 

というくらいの頂き物に僕は小躍りしつつ、

これをどうやって食べるか、素早く思いを巡らせた。

 

韓国式でストレートに食べるなら酢醤油である。

 

牛スジの一種であるアキレス腱は普通なら堅いが、

ゼラチン質が豊富なので、よく煮込むとトロトロになる。

酢醤油をちょちょいとつけて口に放り込むと、

口の中がヌメヌメプルプルと柔らかく刺激されてたまらない。

 

「むふふ。とりあえずは酢醤油だな」

 

だが、これだけ大量となると、

酢醤油だけで食べるにはちょっと飽きる。

となると……。

 

「残りはやっぱりタンであろう」

 

キッチンの下から寸胴鍋を引っ張り出した。

 

 

 

下煮のすんだアキレス腱(左上)を寸胴鍋でコトコト煮込んでいく。牛のモモ肉、スネ肉、各種野菜などを加え、後できれいに漉した。

 

アキレス腱だけでは味が出ないかもと心配し、

近所のスーパーにて牛スネ肉、牛モモ肉なども追加購入。

冷蔵庫の中の余り野菜や、ネギ、ニンニクなども加え、

とにかく長時間、じっくりひたすらに煮込んでゆく。

 

余計なことはしたくないので味付けは少量の塩のみである。

 

料理をしていていつも思うのだが、

この煮込むという作業は本当に楽しい。

 

火加減を見たり、アクを丹念にすくったりしながら、

スープが徐々に美味しくなっていくのを夢想。

うまみが染み出ていく姿を、わが子のように愛しく眺める。

 

自分の部屋で仕事をしながら、時おり台所へと様子見に行き、

フタを開けては色の変貌などをチェック。

小皿で少量のみ味見をして、うんうんと頷いたりする。

 

それを繰り返すこと、丸1昼夜。

 

モモ肉、スネ肉はつつくだけで崩れるほど柔らかくなり、

プルプルだったアキレス腱も、さらに艶やかさを増していた。

じっくり煮込まれたスープも茶系の濃い色に変わっている。

 

「うおおおお、これはうまそうじゃないか!」

 

はやる心を静めつつ、深めの器へと盛り付ける。

箸でちょっとつかむと、アキレス腱は抵抗なく1口サイズに切れた。

柔らかくなったというよりも、むしろ熟れたという感じでもある。

 

おもむろにスープをずずず、とすすると……。

 

ぐはぁ。これは肉の味が濃縮凝縮フルパワー全開。

濃厚こってり汁が、舌に絡みつくどころかしがみついてくる。

 

自宅で作るタンでさえ、ここまでうまいとは。

これぞまさに、

 

「タンイズナンバーワン、略してタンバーワン!」

 

至福の涙をこってり風味で流しつつ、

寸胴鍋いっぱいのスープを3日かけて味わった。

 

これまであまり接する機会のなかった、

アキレス腱の魅力もしっかりインプット。

 

「うむ、やっぱり肉のうまさを味わうにはタンだなあ」

 

という結論をびしっと導くに至った……。

 

 

完成したアキレス腱のスープ。左の写真はその日の食卓。左上にチラリと見えるのは……。

 

というところまで書いて、ここからは独り言。

 

実は途中でちょっとだけ心が動き、

アキレス腱をスープから抜いて和風にも味付けてみた。

ショウガをきかせ、酒と醤油で辛めに煮詰める。

 

乳白色だったアキレス腱が焦げ茶色に染まり、

勢いに乗って、そこにゆで卵まで投入。

 

卵の黄身を煮汁で溶きながら食べるアキレス腱、最高!

 

酒を飲んでもうまいし、飯を食べてもガッポガッポいける。

絶品のアキレス腱煮込みを味わうことができた。

 

そして、タンバーワンのスープも最後にもう一工夫。

 

煮汁をベースにして醤油ダレを別に作り、

そこに濃厚スープを注いで、特製の醤油ラーメン!!

これぞ日本人の喜び、旨みたっぷりラーメン!!

 

もう麺をすする速度がズバズバのズルズル。

 

なぜ、これを最初からやらなかったかというほどうまかった。

 

という訳で、以上がアキレス腱をめぐる至福の3日間。

表から裏から、とにかく満足の日々であった。

 

 

プラスアルファの喜び。アキレス腱煮込みとスープを流用したラーメン。

 

<おまけ>

アキレス腱のスープを韓国語で何と呼ぶか悩んでいます。韓国料理店のお母さんはそこも「トガニ(ヒザ軟骨)」だとおっしゃっておりましたが、厳密には「ヒムジュル(スジ)」と呼ばれる部位ではないかと。であれば「ヒムジュルタン」という名前をつけるべきですが、それもちょっと自信がない。そんな曖昧な理由から生まれた言葉が、正直「タンバーワンスープ」だったりします。牛の各部位については日韓でピタリとくる言葉がなかったりもして、本当に頭を悩ませる分野です。アキレス腱を煮込んだスープの正しい名称をご存知の方はぜひ教えてください。

 

<お知らせ>

タン料理の写真がホームページで見られます。

よかったらのぞいてみてください。

http://www.koparis.com/~hatta/

 

<八田氏の独り言>

何気なく検索サイトで「無知無知プリン」を検索。

結果「約58,500件」の数字にぶったまげました。

 

コリアうめーや!!第130号

2006年8月1日

発行人 八田 靖史

hachimax@hotmail.com

 

 

 

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