コリアうめーや!!メルマガバックナンバー

コリアうめーや!!第125号

 

 

<ごあいさつ>

5月15日になりました。

サッカーワールドカップも目前に近づき、

ファンにとってはそわそわする時期となりました。

あと1ヶ月もすれば熱狂と寝不足の毎日。

栄光の優勝国はいったいどこになるのか。

日本代表は厳しい予選を突破できるのか。

そして韓国代表の成績はどうなのか。

今から気になって気になって仕方ありません。

思えば4年前の日韓共催ワールドカップのときも、

メルマガに同じような話を書いていました。

あの頃は第30号、第31号あたり。

思えばこのメルマガも長く続いているものです。

そして今回のコリアうめーや!!は第125号。

25号、50号、75号、100号と続けてきた、

25号刻みの企画をまたも引っ張りだしてきます。

思い出に残る「あの人」をテーマに、

ガラにもなくちょっとしんみり語るこの企画。

コリアうめーや!!第125号。

記憶の中へ舞い戻る、スタートです。

 

<あの日あの時あの人と……5>

美味しいものを食べた思い出がある。

あの日あの時あの人と、一緒に食べた味わい深い思い出がある。

 

先日、久しぶりにテジカルビを食べたら、

思いのほか美味しかったので驚いた。

 

その店の味付けもよかったのだろうが、

それ以上に久しぶりというのが心に響いたらしい。

食べた瞬間に思わず……。

 

「あー、テジカルビってこんなに美味しかったんだぁ」

 

とつぶやいてしまったほど。

韓国料理としては、かなりメジャーな料理だけに、

何をいまさらという我ながら驚きの反応だった。

 

そのときの感動があまりに大きかったので、

2週間後に、同じ友人を誘ってまた食べに行った。

数年前までは頻繁に通っていたテジカルビの有名店。

ここ最近はご無沙汰だった店だ。

 

声をかけてみると友人の反応が面白かった。

 

「すごい偶然、ちょうど行きたいなと思ってたところ!」

 

どうやら僕と同じような気分だったらしい。

先日のテジカルビが後を引いていた。

 

思えば、テジカルビはここ最近忘れられた料理だった。

本場韓国でも、韓国料理人気に沸く日本でも。

現在のテジカルビは不遇の時代を送っているように思う。

 

 

先日食べたテジカルビ。テジカルビの美味しさを思い出させてくれた。

 

テジカルビとはタレに漬け込んだ豚カルビの焼肉。

 

テジが豚で、カルビは肋骨まわりの肉を表す。

牛のカルビが味付け、味なしの両方で食べられるのに対し、

テジカルビは味付けの状態で出されるのが一般的。

 

タレは醤油をベースに砂糖、果物の汁などで甘味をつけ、

ニンニク、ネギ、ショウガなどを加えて豚肉のクセも消す。

食べたときの軽い甘さと、柔らかい肉質が持ち味だ。

 

また、カルビと名がつくように、骨ごと出てくるのも特徴。

 

骨まわりについた、いちばんうまみの濃い部分も味わえる。

ここは豪快に手で持って、かぶりつくのが正しい作法。

前歯に力を込め、歯で肉をこそげながら食べる。

 

韓国における焼肉の醍醐味を凝縮したような料理だ。

 

そんなテジカルビが不遇の時代にあるというのも不思議だが、

これは韓国豚焼肉界における勢力図の変化によるものが大きい。

かつては2大巨頭という立場にあったサムギョプサルが、

急速な進化を遂げ、テジカルビを置き去りにしてしまったのだ。

 

サムギョプサルは豚バラ肉の焼肉。

 

テジカルビ、サムギョプサルの2横綱時代が、

2001年を境に少しずつ変動を始めた。

 

きっかけはワインに漬けたサムギョプサルの大流行。

ワインの成分が肉に染み込んで、肉が柔らかくなるほか、

豚肉独特の臭いも抑えられるというのが売りであった。

 

だが、もっと大きかったのはワインというイメージだろう。

 

それまで豚焼肉といえばドラム缶テーブルに練炭という、

レトロなスタイルで食べるのが当たり前だった。

それが、ワインサムギョプサルの登場でイメージが一変し、

レストランのように洒落た専門店が続々と誕生したのである。

 

それに影響を受け、ハーブで下味をつけたハーブサムギョプサルや、

薄切りにした餅で肉を包んで食べるトッサムギョプサルなど、

新しい食べ方が次々に生まれ、またそのいずれもが話題を集めた。

 

サムギョプサルは時代の寵児といった扱いさえ受け、

豚焼肉界どころか、韓国料理界のスターダムにまでのしあがった。

 

ここ数年の間、サムギョプサルは時代の先端を走り続け、

現在に至るまで、その状況が継続しているのである。

同じ豚焼肉であるテジカルビは時代から取り残され、

両者の関係は大きく水を開けられたままだ。

 

久しぶりにテジカルビを食べての感想は、

 

「食べてみると、なにかホッとするしやっぱり美味しい」

 

というものだった。

長らく新しい味のサムギョプサルばかりを食べてきたので、

穏やかに甘いテジカルビの味が妙に懐かしかった。

 

また、テジカルビを味わいながらこうも考えた。

 

韓国料理界の実力者をこんな扱いでよいのだろうか。

そろそろ再評価する時期が来ているのではないか。

テジカルビの未来をもっと考えなければならない。

 

僕だって昔はもっと頻繁にテジカルビを食べていた。

留学時代はあれほど美味しい、美味しいと食べていたじゃないか。

 

思いを巡らせる中で、やがてひとつの記憶に行き当たる。

 

「そうだ。あの時食べていたのもテジカルビだった」

 

留学当初に食べた、あるテジカルビの鮮烈な記憶。

同時にひとりの女の子の顔がくっきりと浮かび上がった。

 

 

 

2週間後に再度食べに行ったテジカルビ。骨の部分は両手で持ち、前歯でこそげるようにして食べる。上の2枚の写真はクリックで拡大可。 拡大 拡大

 

僕とミソンが出会ったのは新村という町の居酒屋だった。

当時の僕は、日本語を勉強する韓国人のサークルに出入りしており、

ミソンはそこの初級班に所属する女の子だった。

 

僕もまだ留学したてでほとんど韓国語ができない頃。

 

「彼女も日本語が少ししかできないので勉強になりますよ」

 

紹介してくれた友人は、そう言って僕らを引き合わせた。

年齢は僕と同い年。日本語を勉強してわずか1ヶ月とのことだった。

 

であるならば、拙くとも僕が韓国語で話さねばならない。

 

「あ、アンニョンハセヨ……」

 

僕がぎこちなく挨拶すると、ミソンはニコッと笑った。

 

背中までのスラッとしたロングヘアーが印象的で、

初対面でのその笑顔に、一瞬ドキッとしたが……。

 

「…………ヒゲ?」

 

次の瞬間、困ったような一言を残し、

ミソンは隣にいた女の子と顔を見合わせた。

 

その頃の僕は旅人のような不精ヒゲを生やしており、

年齢不詳の見るからに怪しげな風体であった。

 

どうやらミソンのニコッは言葉に窮し、

反応に困った挙句の愛想笑いであったようだ。

 

韓国では無精ヒゲを生やす若者はほとんどなく、

また儒教の影響もあって、よほどの年配でない限りは、

偉そうに見えるという理由で普通のヒゲも生やさない。

 

外国人である僕の不精ヒゲは、よほど奇異に映ったのだろう。

その後、僕がすぐにヒゲを剃ったのは言うまでもない。

 

 

新村はソウルを代表する繁華街のひとつ。右の写真は当時行きつけだった民俗酒場のチプラギ。ミソンとはここで初めて会った(現在は閉店)。

 

あまり芳しくない第一印象を与えてしまったが、

僕らはこれを機にちょくちょくと会うようになった。

 

ヒゲのときに隣で顔を見合わせたヨンミという女の子と、

僕と同じく留学生で、同じ寄宿舎に住むたっちゃん。

僕らは週に1度と決めて4人で会い、互いの言語を教え合った。

 

このときの様子については僕が書いた初めての著書、

八田式 イキのいい韓国語あります。』に詳しい。

 

全面的にアホまみれの会話を展開しつつも、

僕らなりに楽しく日本語、韓国語を学んだ。

 

本の中では「友人の結婚式に誘われた話」までを書いたが、

今回の本題は、その結婚式が終わった夜のことである。

その後、僕らは新村の町に戻って夕ごはんを一緒に食べた。

 

そのときの料理がほかでもない、テジカルビだったのである。

 

僕はこのとき食べたテジカルビのことをよく覚えている。

 

美味しいテジカルビだったというのもあるが、

ミソンがとった何気ない行動が強く印象に残っているのだ。

 

テジカルビに限らず、韓国の焼肉は葉野菜で包んで食べる。

 

サンチュやエゴマの葉、ときにはケールや白菜なども用いる。

肉だけでなく野菜も豊富に食べられるのが韓国の焼肉だ。

 

そして、この包んで食べるという行為は、

ときに男女のコミュニケーションにもなりうる。

 

韓国では恋人同士で焼肉を食べに行くと、

包んであげて「あーん」というイベントが発生するらしい。

 

らしいというのは、僕が未経験だということ。

食べている焼肉の味が、普段の3割増しになるとも聞くが、

なにしろ味わったことがないので詳細まではわからない。

 

このときのミソンの行動は「あーん」でこそなかったものの、

頃合に焼けた肉を手際よく包み、「はいっ」と渡してくれた。

 

「あーん」と比べれば、若干喜び度は薄れるものの、

友人同士という関係から考えれば、充分すぎるほどの大サービス。

ただ、それが幸せでなく、むしろ不幸せだったのは……。

 

 

その「はいっ」が僕でなく、たっちゃんに向けられたことだ。

 

 

瞬間的に美味しかったテジカルビが砂の味にかわり、

眉間のあたりにチカチカした熱いものを感じた。

脳内で急速に燃えた、嫉妬の炎のようだった。

 

「な、な、な、なんでたっちゃんにだけ……」

「もしかしたらこいつら俺に内緒で仲良くなったのか……」

「それとも俺が何か嫌われることでもしただろうか……」

 

短い間に200くらいのことを考え、

オーバーヒート気味に鼻息が荒くなった。

 

「なぜ、なぜ、なぜ……」

 

と、静かに身悶える僕に次の瞬間、

ミソンは次の「はいっ」を手渡してくれた。

 

どうやら単純に順番ということだったらしい。

おかげで砂の味だったテジカルビも蜜の味に戻ったが、

 

「なんでたっちゃんのほうが先だったのだ!?」

 

というチカチカした脳天の熱さはそのまま残った。

今思えば、みっともないほど青臭い記憶である。

 

 

韓国の焼肉は葉野菜で包んで食べる。一緒にごはんを包んでも美味しい(右)。

 

先日食べたテジカルビのおかげで、

懐かしい記憶がふつふつと戻ってきた。

 

恥ずかしい話ではあるが、これも大事な思い出である。

 

そういえばミソンとも、もうずいぶん会っていない。

最後に会ったのは2001年、いや2002年だったか。

旅行で行ったときに会い、映画を見て食事をしたのが最後。

 

そのときは生まれたばかりの姉の子どもが病気になり、

家族みんなが心配している、というような話をした。

 

その子どもも含めて、元気でやっているだろうか。

 

テジカルビを食べながら、そんなことを考えた。

 

 

こちらは牛カルビ。値段は高いがやっぱり美味しい。

 

<お知らせ>

テジカルビの写真がホームページで見られます。

よかったらのぞいてみてください。

http://www.koparis.com/~hatta/

 

<お知らせ2>

今年から新たにブログを始めています。

日々食べている韓国料理の記録を残しています。

http://koriume.blog43.fc2.com/

 

<八田氏の独り言>

恋愛以前の段階で生じる勘違い。

心の中に痛い過去がたくさんあります。

 

コリアうめーや!!第125号

2006年5月15日

発行人 八田 靖史

hachimax@hotmail.com

 

 

 

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