コリアうめーや!!メルマガバックナンバー

コリアうめーや!!第118号

 

 

<ごあいさつ>

明けましておめでとうございます。

そして韓国語で「セヘポンマニパドゥセヨ」。

いかにも1ヶ月遅れのようなご挨拶ですが、

韓国は旧暦で祝うため、今年は1月29日が正月でした。

わずか3日前の話で、迎えたてホヤホヤ。

まだまだ新年の挨拶があちこちで飛び交っています。

日本の感覚では、もうだいぶ前の話なんですけどね。

日韓両方の文化に接していると、

正月のおかわりがあるようで幸せです。

さて、今号のコリアうめーや!!ですが、

前号、前々号に引き続いての旅話。

昨年11月に食べてきた料理の報告です。

これまでの料理にもおおいに感動しましたが、

今号のテーマは特に思い入れの深い一品です。

コリアうめーや!!第118号。

因縁の地へ、スタートです。

 

<3年越し、念願成就の霊光クルビ!!>

古来よりの金言に「食べ物の恨みは恐ろしい」とある。

 

自分が食べているものをかすめ取られたり、

食べさせてもらうはずの約束が、コロッと覆されたり。

表面上は「いやいやなんの、あははは」という顔を見せていても、

その実、はらわたが煮えくり返っているという話はよくある。

 

僕も例外でなく、食べ物にはおおいにこだわる。

 

普段から性格温厚、明朗快活、いつもニコニコで通っている僕も、

食べ物の恨みには、性格陰湿、根暗粘着、恨みタラタラで立ち向かう。

 

給食のおかわりが僕の目の前で無くなったとか、

食べようと思っていたパンを家族に食べられたとか、

 

「一口ちょうだい!」

 

と言われて差し出したガリガリくんアイスを、

ガブッと大口で食べられて半分以上なくなったとか。

 

「お前、一口って言ったじゃないか!」

「だから一口じゃないか!」

「そんなバカでかい一口があるか!」

「一口は一口だ!」

 

いま振り返っても、怒りがふつふつ沸いてくる。

 

近年の例でいけば、2003年1月の事例がある。

 

僕は1ヶ月間の日程で、韓国の地方を旅していた。

目的はそれぞれ地方ごとの郷土料理を食べること。

ソウルを出発し、江原道、忠清道、慶尚道、全羅道と巡っていた。

 

事件が起こったのは、食文化の豊かな全羅道。

 

ここは食べ歩き旅の中でもハイライトであり、

クライマックスとなるはずの場所だった。

 

ところがここで予想外のハプニングが起こったのである。

思い出しただけでも、腹がたって仕方がない。

 

3年近くも前のことだが、ここはきっちり言わせてもらおう。

 

「やい、俺! お前だ、3年前の俺!」

「全羅道まで行って腹を壊すな、アホタレ!」

「バカモノ俺! 軟弱モノ俺! 根性ナシ俺!」

「腹痛がなんだ、胃がちぎれても食え!」

 

ああ、足りない。まるで足りない。

どれほど激しく叱責しようとも足りない。

あのときの腹痛が心から悔やまれてならない。

 

原因はそれまでの食べ歩きで胃腸が弱っていたこと。

 

移動に継ぐ移動で体力が落ちており、

その状態で無理なドカ食いを続けたのが痛かった。

最後は風邪まで併発し、完全に動けなくなった。

 

全羅道まで来たのに、ひたすら寝て回復を待つだけ。

美味しい郷土料理が、よく効く胃腸薬に化けてしまった。

 

結果として大事に至らなかったのは幸いだったが、

予定していた旅のルートは大幅に短縮されてしまった。

5ヶ所回るはずだった町が、わずかに2ヶ所。

3つの町を諦めるという、惨憺たる結果に終わった。

 

いま振り返っても、本当にもったいないことをしたと思う。

韓国の地方まで旅に出られるチャンスは少ない。

身体をいたわりつつ、賢い旅を送っておけばよかった。

 

2003年1月の僕は、偉大なる反面教師だ。

 

 

2003年1月に全羅道で撮影した写真。倒れて身動きが取れないので宿からの風景写真ばかりを撮っていた。左は光州市、右は全州市にて。

 

そのとき食べ逃した料理のなかで、

もっとも悔まれ、未練が残ったのが霊光クルビ。

 

霊光(ヨングァン)は全羅南道の海沿いにある町。

クルビはそこの名産品で、イシモチの干物のことを表す。

 

ご先祖さまをおまつりする祭祀には欠かせない魚で、

正月、秋夕前になると贈答用として市場、スーパーに並ぶ。

日本ではさほど目立たないが、韓国では垂涎の高級魚だ。

 

その値段たるや、牛肉すら足元にも及ばないほど。

 

体長20センチほどの小さな魚にもかかわらず、

1匹10万ウォン(約1万円)の値がつくこともある。

 

10匹セットで100万ウォンだ。

 

これだけの値がつくのは味だけでなく希少性も大きい。

 

霊光産のクルビは、数が大幅に減っており、

食堂などで食べられるクルビなどは外国産がほとんど。

チリあたりで獲れた近似種も多く出回っている。

 

本場の霊光クルビはめったに食べられない。

 

そんなチャンスをみすみす逃したのは無念の極み。

今回の旅は僕にとって執念のリベンジマッチなのだ。

 

 

 

デパートの贈答品コーナー。10匹セットのクルビが100万ウォン(右上)、牛肉のセットは48万ウォンだった。右下はソウルの食堂で食べたクルビ定食。

 

昼食をとった羅州から、バス3台を乗り継いで霊光に到着。

正確には霊光郡の法聖浦(ポプソンポ)という漁港が最終目的地だ。

霊光クルビの大半は、この法聖浦で生産されている。

 

到着してみると、そこはまさにクルビだらけの漁港であった。

 

海岸線に沿ってクルビを生産する業者の店がずらり。

そして店頭には、おびただしいほどのクルビが干されている。

 

ひもで数珠繋ぎになっているため、

見た目はまるで魚のカーテンか、縄のれんのよう。

 

このインパクトを文章で表現するのなら、

 

クルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビ

クルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビ

クルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビ

クルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビ

クルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビクルビ

 

という感じ。

 

文章で表現といいつつ、どこも文章になっていないあたりから

僕の興奮具合と、荒い鼻息を推察して欲しい。

胸を突き上げる熱い思いと反比例するかのように、

3年前の悔恨がハラハラと溶けていった瞬間である。

 

 

 

霊光郡法聖浦の風景。至るところでクルビが干されている。

 

しばしクルビだらけの光景を眺めていたが、

見ているだけでは、やはり感動も半分でしかない。

 

うまい魚は見るものではなく食べるもの。

 

海辺に並ぶ店は、クルビの生産場なので、

購入することはできても食べていくことはできない。

そこで地元の人にクルビが食べられる店を尋ねてみた。

 

教えてもらったのは「一番地」という専門店。

地元でもかなり高級な部類に入る店らしく、

 

「クルビを食べるならここだ!」

「あそこは高いから止めとけ!」

 

という2つの意見にバサッと分かれたのが面白かった。

 

店に入ってみると、確かに高そうな内観である。

 

ディナーには2種類のコースがあり、

それぞれ4万5000ウォンと、6万ウォン。

1人あたりではなく、1テーブルの値段である。

 

客が4人以下であれば4万5000ウォンのコース。

それ以上であれば6万ウォンのコースをすすめるらしい。

僕らは2人だったので4万5000ウォンのコースを注文した。

 

そして、ここからが圧巻だった。

 

ビールを注文してゆるゆる待っていると、

3人の店員が巨大なお盆を持って慌しくやってきた。

 

「はい、これが何、これが何、これは何ね」

 

料理名とともに矢継ぎ早に皿を置いていく。

 

「それで、これが何、これが何、これは何ね」

「次に、これが何、これが何、これは何ね」

 

みるみるうちに、テーブルが皿でいっぱいになった。

 

出てきた料理は全部で30品。

しかも細々としたキムチ、ナムルばかりでなく、

充分メインを張れるような料理がずらずら並んでいる。

 

大盤振る舞いに驚くどころか、あっけにとられて目が点状態。

箸を持ったまま、しばらく固まって動けなかった。

 

「とりあえずはメインのクルビを……」

 

と思ったものの、クルビ料理だけでも全部で5種類ある。

 

・クルビグイ(クルビの焼き魚)

・クルビメウンタン(クルビの辛い鍋)

・コチュジャンクルビ(クルビのコチュジャン漬け)

・クルビジョン(クルビのチヂミ)

・クルビジョッ(クルビの塩辛)

 

ほかではまず見られない、地元ならではのラインナップ。

クルビにこれだけの料理があるとは知らなかった。

 

迷いに迷いつつ、まずは定番のクルビグイ(焼き魚)に箸を伸ばす。

 

あぶられてパリッとなった皮をおもむろに破り、

わずかに黄色がかった白身をほじくり出す。

 

それにしても立派なクルビである。

 

堂々とした体躯。充実した腹回り。

背骨から腹にかけて、大きく身をむしりとり、

万感の思いとともに口の中へと運び込んだ。

 

最初に感じたのは干物ならではの鮮烈な香ばしさ。

アミノ酸の凝縮した、たっぷりの旨みがにじみ出てくる。

淡白でありながら、とても奥深い上品な味。

 

身ばなれのよい魚なので、どんどん手が伸びてしまう。

塩味も絶妙。魚の旨みを上手に引き締めている。

塩にもこだわりがあり、天日塩しか使わないとのこと。

 

見ると腹のところに卵を持っていた。

 

後で調べたところ、霊光クルビは卵が重要らしい。

産卵期のクルビにこそ価値があるのだとか。

 

僕もこれまでずいぶんクルビを食べてきたが、

卵を持っているクルビに出会ったのは初めてだった。

これも産地だからこその味覚なのだろう。

 

卵を見つけた幸運で大喜びし、夢中で食べてしまったが、

悲しいかな、3匹あるうちの残り2匹は卵を持っていなかった。

 

「1匹だけなら、もっとじっくり食べればよかった」

 

と後悔したが、これもまたもう遅い。

 

他のクルビ料理もそれぞれ美味しかったが、

特によかったのがコチュジャンクルビだった。

 

クルビの身の部分をコチュジャンに漬け込んだもの。

コチュジャンの甘さ、辛さが絶品であるうえ、

そこにクルビの旨みが加わるのだから泣けてくる。

 

白ごはんに乗せて食べると、これがまた抜群の味。

これだけでどんぶり飯をバクバク食べたいと思った。

 

だが、目の前には30種類の料理がある。

いくらコチュジャンクルビがうまかろうとも、

みすみすこれらを逃すわけにもいかない。

 

「なぜ人間の胃袋はかくも小さいのか!」

 

美味と美味のはざまで、葛藤の涙を流すほかなかった。

 

 

 

 

一番地で食べられるクルビ料理。右上の写真はクリックで拡大可。 拡大

 

最終的にすべての料理に手はつけたものの、

さすがに食べきるまではいかなかった。

 

もっと食べたいけれども、胃に入っていかない。

 

3年越しの願いは無事に果たせたものの、

満足できない気持ちも、そのぶん増えたような気がする。

 

クルビグイをバリバリとお腹いっぱい食べたい。

卵があるかどうかも、しっかり確認しつつ食べてみたい。

コチュジャンクルビで目一杯ごはんを食べたい。

 

霊光クルビの魅力は、1食では味わいきれない。

いずれまたじっくりと食べに行かねばならないだろう。

 

次はいつ願いをかなえられるかわからないが、

気持ちだけはしっかりと残しておこう。

 

食べ物の恨みをも凌駕する。

それがあくなき食への執念だ。

 

テーブルにずらりと並んだ料理の数々。

 

<おまけ>

メルマガに登場したお店データ

 

店名:一番地(イルボンチ)

住所:全羅南道霊光群法聖面法聖里650-3

電話:061-356-2268

HP:なし

 

<おまけ2>

コースに出てきた料理一覧

クルビの焼き魚、クルビの辛い鍋、クルビのコチュジャン漬け、クルビのチヂミ、クルビの塩辛、焼き魚(コチ、シタビラメ、タチウオ)、ワタリガニの醤油漬け、ワタリガニの薬味漬け、マナガツオの煮物、エイの蒸物、エイの和え物、アナゴの煮物、クラゲ冷製、トッカルビ、牛肉の醤油煮、アサリの塩辛、牡蠣の塩辛、モヤシのナムル、ドングリのムク、黒豆の煮物、焼き海苔、白飯、薬飯、アサリと大根の汁、白菜のキムチ、白菜の浅漬けキムチ、大根の水キムチ、カラムシの葉のモチ

 

<お知らせ>

霊光クルビの写真がホームページで見られます。

よかったらのぞいてみてください。

http://www.koparis.com/~hatta/

 

<お知らせ2>

今年から新たにブログを始めました。

日々食べている韓国料理の記録を残しています。

http://koriume.blog43.fc2.com/

 

<八田氏の独り言>

食べれば食べるほど食べたいものが増える。

これを韓国料理スパイラルと言います。

 

コリアうめーや!!第118号

2006年2月1日

発行人 八田 靖史

hachimax@hotmail.com

 

 

 

戻る

トップページへ